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夜伽月 よとぎづき 
第7章 秘密
朝靄が掛かる頃、町の外れの茶屋迄やって来た。

「ここでお別れですね。お礼はまた後ほど…」

丁度何本かの分かれ道になっている。
ここからは、それぞれ清賢は寺へと続く道を、透は水琴窟への道を行く。

「では… 」

朝靄の拓けた道を静かに進む。何処からかご飯が炊ける良い香りがして来た。井戸の周りには女達が集まり水を汲みに来ている。懐かしい香りに月は薄っすらと眼を開けた。

「起きたか?」

「うん…」

ひやりとした透の手が月の額に触れた。うつらうつらとしている月の顔色が悪い。

「 ふむ…少し熱が高いな。水を貰おう」

馬から降り、透は女達から水を分けて貰い竹筒へと注いだ。頭巾を被ったままでも、身のこなしが優雅な透を見て女達は何処の偉い人のお忍びだろうと、噂しあった。

月を抱える様にして下ろすと竹筒を口元へと近づけ傾けた。

「ほら…水だ。飲め」

しかし、月の口元からたらたらと溢れてしまう。

「世話の掛かる奴め…」

透は、頭巾をあげ竹筒から徐に水を口に含んだ。

「あら!あんた良い男じゃないか」

透の顔を覗き込んだ女達が囃し立てた。

「あんたこの町の者かい?」「なんと色が白いこと!」


そして月の唇に自分の唇を静かに押し付けると、それを噎せない様に少しつづ、流し込んだ。

「ちょっと!あんたっ。怪我してるじゃないかっ!」

ひとりの女が声を上げた。透の太もも辺りに血が滲んでいたからだ。透は、それをみると小さく舌打ちをした。

「騒ぐな…かすり傷だ」

竹筒の水筒を胸にしまうと、徐に立ち上がった。

「でも…あんた…手当をした方が良いよ」

それはどす黒い染みとなって広がっていた。

「助かった。礼を言う」

月を再び馬に載せるとその場を透は去った。
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