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夜伽月 よとぎづき 
第2章 水琴窟
「きゃーっ!熱いっ」

「に…人魚様!だ…大丈夫か?」

小鳥と一緒に朝食の準備をしていた。鍋の蓋を開けた時に、白い湯気で火傷をしてしまった。

「小鳥ちゃんお願いだから、人魚様は、やめて?月と呼んで」


何度となく言ってきたが、小鳥は月をいまだにそう呼んでいた。


「おまえの国では、飯炊きはしないのか?それとも飯炊きもしたことの無いお姫さんか?」

水琴窟に居候するようになって1週間。

かんざし婆は、月の余りの不出来さに呆れていた。小鳥は水で濡らした冷たい手ぬぐいを月の火傷にそっとあてた。

「おばば様申し訳ねぇ。あたしがみてなかったばっかりに…人魚様は悪くねぇです」

小鳥は、月が炊いた生炊きの米を鍋に移し替え、雑炊を作り始めた。

「ここは、あたしがしますから、人魚様はお部屋で飯が出来るまで待ってて下せぇ」

手伝うつもりが、月が手を出すことで余計な面倒を小鳥にかけていた。

「仕事を増やしてしまって本当にごめんね」

「気にしねぇでくれ。小せぇ頃から家のことだけは得意だ。お婆様も人魚様に人間の仕事をさせるなんて…酷ぇ話だ。今にバチが当たる」

小鳥はちょっとおどけた様にわらってみせ、いつも月を庇った。

昼間は小鳥に家事を、夜はかんざし婆に、この町のことや手習いを教わっていた。

「飯炊きも縫物も駄目。水汲みや洗濯も駄目。三味線も茶も嗜まない…って月…一体あんたは何が得意なんだろね。困ったもんだよ。全く」

電気に頼らない生活がどんなに大変だったか、月にとっては想像以上のものだった。

「本当に…すみません」

いまだに着物をひとりでは着られずに、毎朝小鳥にこっそり手伝って貰っているとは、かんざし婆には言えなかった。

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