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夜伽月 よとぎづき 
第3章 四ツ目屋
「な…なんと!」

蝮和尚が、声をあげたので月はそちらをちらりと見た。

「そうであろう?和尚」

蝮和尚は、突然のことで思わず頷いてしまった。

「このままでは、この子は両家を末代まで祟ると申しております。赤子の魂というものは、純粋な故に融通が聞かぬ…困ったものです」

「そ…そんな!」

お付きの者たちがざわめいた。しかし、流石に2人の奥方は冷静だ。

…もう後戻りはできない。

月は亡くなった赤ちゃんをぎゅっと抱きしめた。

長い沈黙。

「分かりました。先程は大変なご無礼を致しました」

史の義母は身を改めると深々と謝罪をした。

「忌み嫌われる子など、この世にはひとりたりともおりません」

威厳のある月の声には余裕さえ感じられた。

「その…赤子の魂は、どうしたら怒りを納めてくれますでしょうか?」

その気合に押されるように、史の母達は月に対する態度をがらりと変えた。

月はその言葉を聞いてホッとした。ゆっくりと頷いて、赤ちゃんの口元に耳を寄せた。

「…はい」

暫くの間、そのままじっと動かずにいる月は、まるで亡くなった赤ちゃんと話をしているかの様に見えた。

「…生まれ変わりたい…この身体を丁寧に供養してくれ…月が2度満ちるまで、寺で母の史に祈祷して欲しい…その時こそ復活すると…」

「なんと!そんな馬鹿な」「死んだ子が生き返るなど聞いたことも無い!」

流石にそれは、誰も信用していない様に見えた。

「…それがこの子の望みだと…生まれ変わった暁には、この子は最初に生まれた男児と供に末永く両家の守り神になるでしょう」

月の言葉を信用する者、疑う者、お付きの者たちは主人の答えを待った。

「わたくしも祈願致しましょう。祈願の間、史以外のものは、寺に入る事も、子の顔を見る事も許されません。それで良いですね?」

月は立ったまま、史の母親達に畳かけた。
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