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蜘蛛♠
第6章 能力者

その間にS子に近づき何とか誤解を解くしかない。
川澄はリビングドア付近まで行き、M奈に見つからないよう、両手にもつ大量のポップコーンを床へばらまいた。
これで4分は時間を稼げるはずだ。
そしてゆっくりとドアを閉め、うまくS子と二人きりの空間を作り出した。

川澄の気配に気づいたS子が振り向く。
だが表情を全く変えることなく、再び調理を開始した。
怒ってる?いや、呆れているのか?それとも嫌われた?
今のS子の表情からは何も読み取れない……。
接触するしかないな。

川澄は勇気を振り絞りS子の真横へと移動した。
気づかぬふりをしているのか、S子はこちらを見ようとしない。
いざ、横に立つと凄まじいほどの存在感。女の横に立つだけで緊張するなどここ何年も味わっていない。
菜箸を使いモツの煮込みを温めている様子を見て、川澄は袖からオタマを取り出した。

「S……S子ちゃん……これ!!さっき落としてったよ……!!」

「…………………………」

S子はこちらを見向きもしない。まるで川澄の存在に気づいていないかのように、ただ一点だけを見つめている。
シ…………シカト!!!!!???
マジ?ウソ!!まじでっ!!!??
ぬぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!
無理だ無理だ無理だ!!完全に嫌われてるよこれっ!!!!!
めっちゃ怒ってるやん!!!!めっちゃ呆れてるやん!!!!どうしよどうしよどうしよ!!!
川澄の全身から大量の汗が噴き出した。

沈黙に耐えられなくなった川澄は、蛇口をひねりオタマを洗うことにした。水しぶきが川澄の顔を直撃する。
焦りすぎて思わず強くひねりすぎた。
フキンを探すが見つからない。
キョロキョロとしていると、S子が無言でフキンを渡してきた。
だが、決してこちらを見ようとしない。
川澄はフキンを受けとりオタマを拭いた。
ここしかない。
S子が一瞬だけガードを下げたこの瞬間を逃すわけにはいかない。

「あ………あのさ………S子ちゃん………。さっきの事なんだけど………。あの~、何て言ったらいいかぁ……。いや~あの~、実はさぁ、こないだテレビでね!女性物のパンツを被ると寒さが一時的に和らぐってやってて!!ほっ、ほらあれっ!!サンマのやつ!ホンマでっかTVだっけ?それを思い出して……………つい………。」
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