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甘えた
第5章 05
放課後になると、ダンスに参加する女子たちの衣装作り、応援用の看板や旗作りの作業をする生徒の姿でごった返す。

陸上競技に出るあたしは準備係ではないので、いつもと変わらず帰宅する。

帰る前にトイレに寄ろうと廊下を歩いているとトイレの前に長谷川くんが壁に凭れて立っていた。それは結愛花がトイレに居るってこと。

長谷川くんをちらりと見やってトイレに入る。

4人もの先客がいて他のトイレに移動しようかと迷い、足を止める。

看板作りをする準備係の子達なのだろう、手にニオイのきついペンキの缶を持っている。

ペンキなんて教室に置いて来たらいいのに…

呑気にそんなことを考えていたが、おかしい…彼女らはひとつのドア付近にかたまっていて不自然だった。

水洗の流れる音が聞こえると、彼女たちがドアの開く方向に身構えた。

その個室の中に結愛花がいる?!

そう思った瞬間、腕を広げ4人に向かって体当たりをした。

ダンッと壁にぶち当たる音、「わっ」「きゃっ」と短く上がる悲鳴。

「とわちゃん?」

開いたドアから結愛花が不思議そうな顔をして出てきた。

「長谷川くんを呼んで来てっ」

長谷川くんに頼る気は無かったけど、『逃げて』と言ったところで何のことか分かっていない結愛花は動かないだろう…『呼んで来て』と言えばすぐに長谷川くんの元へ行くはず。

読みは当たり、結愛花は即座に出口に向かってくれた。 
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