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暁の星と月
第3章 暁の天の河
「…わあ…!綺麗…!」
月城に案内されて、足を踏み入れた温室に暁は思わず歓声を上げた。
ここは薔薇専用の温室だった。
薔薇好きの梨央の為に伯爵が、欧州からわざわざ希少な薔薇の苗を取り寄せ、まるで薔薇の屋敷のように芸術的に創り上げた温室であった。
紅、白、黄色、薄紫、そして滅多に咲かせることは出来ない蒼い薔薇まで咲きそろっていたのだ。
うっとりと薔薇の香気とその美しい姿を愉しむ暁に、月城は静かに声をかけた。
「…欧州では温室の中で、お茶会を開かれたり、談笑をされたりとサロンのように使われている貴族の方もおられるそうです。旦那様も時々、こちらで音楽サロンを開かれるのですよ。…いつか暁様もいらしてください」
薔薇の群生からゆっくりと首を巡らし、暁は月城をじっと見つめた。
その瞳の中にはなんとも言えない不思議な色が浮かんでいた。
「…暁様?」
暁はふっと淋しげに笑った。
「…どうかされましたか?」
首を振り、もう一度薔薇の花々を見上げる。
「…夢だったら覚めないといいなあ…て、思っていたんです」
「…暁様…」
暁は静かに口を開いた。
「…僕はほんの3ヶ月前までは浅草の貧しい長屋に住んでいたんです。母さんが亡くなり…ヤクザな男達に売り飛ばされそうになった時に、兄さんが救い出してくれました。…そして天涯孤独な僕を引き取り、何不自由ない生活をさせて下さっています」
…そんな壮絶な過去があったのか…と月城は息を呑む。
「…その日から、僕は毎晩祈っています。これが夢ではありませんように…明日目覚めたらまたあの長屋でひとりぼっち…なんてことになりませんように…と。…そして朝になると感謝するんです。
神様、夢ではなくて、ありがとうございます。僕を兄さんの側にいさせてくれてありがとうございます…と」
月城の胸がこの美しい少年への愛しさに似た感情で一杯になる。
「だから…こんなお伽話のような温室にいて、薔薇を眺めているなんて…。また、夢ではないのかとふと思ってしまったんです」
「…夢ではありませんよ」
月城は優しく微笑む。
「本当に?」
まだ不安そうな暁に、月城は自分の手を差し出す。
「…触って下さい」
暁はおずおずと美しい執事の手を握る。
「…どうですか?夢なら感触はないはずです」
暁は首を振り、嬉しそうに笑った。
「…温かいです」
夜にひっそり咲く白い花のような嫋やかさであった。
月城に案内されて、足を踏み入れた温室に暁は思わず歓声を上げた。
ここは薔薇専用の温室だった。
薔薇好きの梨央の為に伯爵が、欧州からわざわざ希少な薔薇の苗を取り寄せ、まるで薔薇の屋敷のように芸術的に創り上げた温室であった。
紅、白、黄色、薄紫、そして滅多に咲かせることは出来ない蒼い薔薇まで咲きそろっていたのだ。
うっとりと薔薇の香気とその美しい姿を愉しむ暁に、月城は静かに声をかけた。
「…欧州では温室の中で、お茶会を開かれたり、談笑をされたりとサロンのように使われている貴族の方もおられるそうです。旦那様も時々、こちらで音楽サロンを開かれるのですよ。…いつか暁様もいらしてください」
薔薇の群生からゆっくりと首を巡らし、暁は月城をじっと見つめた。
その瞳の中にはなんとも言えない不思議な色が浮かんでいた。
「…暁様?」
暁はふっと淋しげに笑った。
「…どうかされましたか?」
首を振り、もう一度薔薇の花々を見上げる。
「…夢だったら覚めないといいなあ…て、思っていたんです」
「…暁様…」
暁は静かに口を開いた。
「…僕はほんの3ヶ月前までは浅草の貧しい長屋に住んでいたんです。母さんが亡くなり…ヤクザな男達に売り飛ばされそうになった時に、兄さんが救い出してくれました。…そして天涯孤独な僕を引き取り、何不自由ない生活をさせて下さっています」
…そんな壮絶な過去があったのか…と月城は息を呑む。
「…その日から、僕は毎晩祈っています。これが夢ではありませんように…明日目覚めたらまたあの長屋でひとりぼっち…なんてことになりませんように…と。…そして朝になると感謝するんです。
神様、夢ではなくて、ありがとうございます。僕を兄さんの側にいさせてくれてありがとうございます…と」
月城の胸がこの美しい少年への愛しさに似た感情で一杯になる。
「だから…こんなお伽話のような温室にいて、薔薇を眺めているなんて…。また、夢ではないのかとふと思ってしまったんです」
「…夢ではありませんよ」
月城は優しく微笑む。
「本当に?」
まだ不安そうな暁に、月城は自分の手を差し出す。
「…触って下さい」
暁はおずおずと美しい執事の手を握る。
「…どうですか?夢なら感触はないはずです」
暁は首を振り、嬉しそうに笑った。
「…温かいです」
夜にひっそり咲く白い花のような嫋やかさであった。