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暁の星と月
第1章 暗闇の中の光
母親は艶やかに紅く塗られた唇を歪めて、嗤う。
「弟?あんな下品なメイドから生まれた子なんか、貴方の弟の訳がないわ。
所詮お父様は賤しい炭鉱夫のお血筋、お遊びになる相手も品がないこと…」
礼也は眉を顰め、毅然とした口調で言い放つ。
「私にもお祖父様の炭鉱夫の血は流れていますよ」
一代で炭鉱業を興し、大財閥を成した祖父を尊敬する礼也は、祖父を侮蔑する母親が許せなかった。
母親は不意に猫なで声になると礼也に近づき、愛しげに息子の引き締まった頬を撫で、うっとりとする。
「…貴方には私の実家の由緒正しい血が流れているのよ。…まあ、礼也さんのお品のあるお美しいお顔と言ったら…明らかに私の両親の血筋だわ。
…縣のお祖父様に似なくて本当に良かった」
礼也は冷たく、母親の手を振りほどく。
「私は炭鉱夫から財を成したお祖父様の血を誇りに思っております。お母様からしたら賤しい炭鉱夫の血かもしれませんが、私には輝かしい血です。
…私は不遇だった弟を大切に育てるつもりです」
「礼也さん!」
柳眉を逆立てる母親を礼也は静かに、しかし有無を言わせぬ迫力で制する。
「お母様には今迄通り、こちらで何不自由ないお暮らしが出来るよう取り計います。…若き愛人をいくら作ろうとご勝手に。
…しかし、私の血を分けた弟に今後一切手出しはご無用です。…もし、再び暁に何かをなさろうとした時は…お母様でも容赦はいたしません。…どうぞ、そのおつもりで」
唖然として声も出ない母親を尻目に、礼也は優雅な一礼をするとそのまま速やかに母親の居間を後にしたのだった。


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