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暁の星と月
第1章 暗闇の中の光
部屋の隅にある古びた鏡台…。
「…引き出しの中をご覧…」
暁は引き出しを開けた。
…この薄汚い長屋の部屋に凡そ似つかわしくない天鵞絨の小さな宝石入れが大切にしまわれていた。
「…開けてご覧…」
暁は恐々と宝石入れを開ける。
思わず目を見張る。
…きらきらと輝く…指輪…なんて綺麗な宝石だ…!
学がない暁には何の石かもわからない。
けれど、無色透明で灯りを当てなくてもそれ自体が輝くような魔法のような宝石だった。
「…ダイヤモンドと言う石らしい…これは縣男爵様にいただいたものなんだよ…指輪の内側に男爵家の紋章が彫ってあるそうだ…男爵様は、あたしを凄く可愛がってくださったから…」
…あたしの誕生日に下さったのだと、母は病の床で小娘みたいに嬉しそうな顔をした。
「…男爵様はあたしがあんたを産んだことを知らない…奥様がきつく口止めをなさって、あたしにも二度と屋敷に近づかないように幾ばくかのお金を渡されたからね…」
…そのお金もあのろくでなし共がみんな持っていっちまったけどね…。
母は唇を歪めて自嘲する。
「…だけど…あたしが死んだら…あんたはどうやって生きていくの…このままここにいたら、あんたもあたしの二の舞だ…それだけは絶対に嫌だ…あんたには幸せになってほしい…!明るい陽の当たるところで生きていってほしいんだ…!」
「…母さん…!」
暁は母の手を強く握りしめた。
…愚かな母…
…可哀想な母…
だけど…
…たった一人の母…!
「…死なないでよ…!」
暁の目から初めて涙が溢れた。
母は優しく微笑んで、その涙を細い指先で拭ってくれた。
「…私が死んだら…この指輪を持って…松濤の縣男爵様のお屋敷に行くんだよ…あんたは間違いなく縣男爵様のこども…この指輪がその証拠…これを見たら、男爵様もきっと私を思い出してくださるはず…」
母の声が次第にか細くなる。
「母さん…!」
「…いいね…必ず…必ず…縣男爵様のところにいくんだよ…」
そして…
…ごめんね、あきら…と、ようやく聞き取れる声で囁き、それが母の最期の言葉となった…。
「…引き出しの中をご覧…」
暁は引き出しを開けた。
…この薄汚い長屋の部屋に凡そ似つかわしくない天鵞絨の小さな宝石入れが大切にしまわれていた。
「…開けてご覧…」
暁は恐々と宝石入れを開ける。
思わず目を見張る。
…きらきらと輝く…指輪…なんて綺麗な宝石だ…!
学がない暁には何の石かもわからない。
けれど、無色透明で灯りを当てなくてもそれ自体が輝くような魔法のような宝石だった。
「…ダイヤモンドと言う石らしい…これは縣男爵様にいただいたものなんだよ…指輪の内側に男爵家の紋章が彫ってあるそうだ…男爵様は、あたしを凄く可愛がってくださったから…」
…あたしの誕生日に下さったのだと、母は病の床で小娘みたいに嬉しそうな顔をした。
「…男爵様はあたしがあんたを産んだことを知らない…奥様がきつく口止めをなさって、あたしにも二度と屋敷に近づかないように幾ばくかのお金を渡されたからね…」
…そのお金もあのろくでなし共がみんな持っていっちまったけどね…。
母は唇を歪めて自嘲する。
「…だけど…あたしが死んだら…あんたはどうやって生きていくの…このままここにいたら、あんたもあたしの二の舞だ…それだけは絶対に嫌だ…あんたには幸せになってほしい…!明るい陽の当たるところで生きていってほしいんだ…!」
「…母さん…!」
暁は母の手を強く握りしめた。
…愚かな母…
…可哀想な母…
だけど…
…たった一人の母…!
「…死なないでよ…!」
暁の目から初めて涙が溢れた。
母は優しく微笑んで、その涙を細い指先で拭ってくれた。
「…私が死んだら…この指輪を持って…松濤の縣男爵様のお屋敷に行くんだよ…あんたは間違いなく縣男爵様のこども…この指輪がその証拠…これを見たら、男爵様もきっと私を思い出してくださるはず…」
母の声が次第にか細くなる。
「母さん…!」
「…いいね…必ず…必ず…縣男爵様のところにいくんだよ…」
そして…
…ごめんね、あきら…と、ようやく聞き取れる声で囁き、それが母の最期の言葉となった…。