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暁の星と月
第1章 暗闇の中の光
暁は礼也に抱きかかえられたまま、長屋の前に停められていた見たこともないような黒くぴかぴか光った大きな車に乗り込む。
見慣れない高級外車に他の長屋の住人がざわざわしながら遠巻きで眺めていた。

…ふかふかの雲のような柔らかな座席、床には踏むことが躊躇われる赤く美しい布が敷かれている。
窓硝子は透明で透き通るようだ。
…隣には兄だと言う美しく逞しい青年が座って、暁を安心させるように肩を抱いている。
…本当に…今起こっていることは現実なのだろうか…。
暁は到底信じられず、窓の外を食いいるように見つめた。

「…出してくれ」
礼也の一言で、車は滑らかに発車し、見る見る間に暁の住んでいた長屋は小さく遠ざかっていった。
瞬きもしないで外を見る暁を、緊張しているのだと解釈した礼也は、優しく声をかける。
「…何を持ってきたの?」
暁は礼也の声に我に帰り、風呂敷を開ける。
「…母の位牌と…あの…これ…」
おずおずと天鵞絨張りの指輪の箱を礼也に渡す。
「…母がなくなる前に、渡してくれたんです。…縣男爵様に戴いた指輪だと…」
礼也は箱を開け、指輪を手にしてリングの内側を透かして見る。
彫像のような端正な横顔に、暁はどきどきする。
「…間違いない。縣家の紋章入りだ。父が宝飾品を作らせる時にはいつもこの紋章を入れているのだ」
そして、改めて暁を強く抱き寄せる。
「…君はやはり私の弟だ。…良かった…!君が無事で…本当に良かった…!」
「…礼也様…」
「…もう怖いことは何もないからね。安心して…。
…一人でよく頑張ったね…暁…」

優しく温かく美しい声…。
礼也の上質なスーツは柔らかく、嗅いだことがないような良い薫りがした。
車は滑らかに進む。
暁は遠慮勝ちに礼也の胸元に顔を埋める。

…天国があるのならば、きっとこんなところなのかな…。
…このまま死んでも悔いはない…。
でも、礼也の胸は逞しく温かくて…

…神様、もう少しだけこの世にいさせてください。
…この、兄だと名乗る美しくて優しい人と…
もう少しだけ、一緒にいさせてください…。
今まで何かを願ったことなど、一度もなかった。
暁が祈っても、願いは聞き届けられないことを知っていたからだ。
…だけど…
こんな奇跡が起こった。
神様のきまぐれかもしれないけれど…。
…あと少しだけ…。

暁は神に、生まれて初めて祈った。








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