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裏切りのエチカ
第1章 裏切りのエチカ
 私たちには名前もない。
 家族もない。
 戸籍もない。
 いつ殺されて山奥に捨てられても、誰も探さないし、犯人も捕まらない。
 だから仲間内の結束は絶対だ。
 裏切りは即、死を意味する。
「楽に殺してもらえると思うなよ、あたしらそんなに優しくないからね」
 警察で仲間の名前や住所をバラした、通称アキナが仲間に拘束されたとき、その当時ボスだった通称アヤメは言った。
 アキナは全裸で土下座しながら、あまりの恐ろしさに失禁した。
「さあ、どうしようか。中国マフィアに売り飛ばすか。連中はこわいよ。こないだの、えーと、何つったかな」
「キヨミ、です」とナンバー2のイクミが言った。
「そうそう、キヨミなんか、最初は普通にマワされて、次はケツの穴でマワされて、最後はヘソのすぐ下に人工のマ●コを開けられて、そこを寄ってたかって犯されたんだってよ。それでも三日間は生きてたんだって。チャイナマフィアは恐ろしいわ」
「……許してください、何でもしますからぁ……」と土下座したままアキナは泣いた。
 自分で掘った穴の中で、後ろ手に縛られた全裸が怪しく揺れた。
 林道から車を下りて山に入り、一時間も全裸で歩かされ、身体は血まみれになっていた。
 そして自分を埋める穴を掘らされ、後ろ手に縛られ、穴に放り込まれ、あとは埋められて死を待つばかりだった。
「まあ、男たちを喜ばせるのも癪だからね。かといってただ殺すのはもったいない。こんな奴でも生まれてきた意味ってものがあるだろ。お前をこの森の虫たちに捧げるよ」
 私たちは焼酎で溶いた蜂蜜をバケツ一杯、アキナの頭からぶっかけた。
「運が良ければ助かるだろ。夏だしね」
 一週間後、私たちは再びそこに立った。
 アヤメとイクミ以外、みんな吐いた。
 私たちは吐きながら、気持ち悪い虫の巣と化したアキナを埋めた。
 腐肉の異臭は耐えがたく、シャワーを浴びたくらいでは落ちなかった。
 生きながら虫に食われて死ぬなんて……
 裏切りは絶対に、絶対に許されない。
 仲間のみんなと同じように、私も心に刻んだ。
 はずだった。
 なのに、まさか、この私が……
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