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サイレントエモーショナルサマー
第30章 bacio
「藤くん…当たってる、」
「バレました?」
「バレないと思ってたの?」
「思ってません」
「今日は嫌。流石にそこまでしたくない」
「俺だってそんな無茶させたくないです」
「じゃあ、下ろして」
「それは嫌です」
私にどうしろと。息をついて大人しくすると気分を更に良くしたらしい藤くんの手がするりと服の中へ滑り込んでくる。彼だってこのまま興奮すれば辛いだろうに、それよりも私に触れたいのか。
「セルフサービスになっちゃうよ」
「しますよ」
すぱっと返され黙り込む。藤くんの脳内には恥じらいという言葉はないらしい。流石に私が物理的に手の届く距離に居なければセルフサービスも厭わないようだ。各種経典も本日はお役御免なのか。
「…口でしてあげようか」
「…っ」
「今、揺れたね」
「揺れるでしょ。でも、いいです。あれより、セックスの方がいい。それに、」
「それに?」
「……秘密」
「でた、ひみつ」
身を捩って、立ち上がる。藤くんの方へ振り返り、彼の足を跨ぐようにして座り直す。首に腕を回して、頬へ口付ける。そこでいいの、と甘く言われ、唇にやわく噛みつく。
「…もういっこ我侭言っていいですか」
見つめ合いながら、そっと藤くんが言う。なに?と問わずにキスをして続きを促す。
「ちょっとだけでいいです。少しの間だけでいいから志保さんを抱き締めて眠りたい」
胸元に押し付けられた頭部を抱き締める。浩志より藤くんの方が重症だとは思っていたが、私の想像以上の重症さだ。彼は私を甘やかしながらも、私に寄りかかっていたのだろう。
与えられるばかりではなかったのかもしれない。私が彼にしてあげられることは少ないかもしれないが、ただ、近くに居るだけでも彼の気持ちを落ち着かせることが出来るのだと感じて胸奥がじんと熱くなる。
「横になろっか」
いいこいいこ、と後頭部を撫でる。彼の足の上から降りて、手を引いた。柔らかいシーツの上に倒れ込む。微かに軋むベッドの音。腕を広げる藤くんにすり寄って、彼がしてくれた時のことを思い出しながら、ぽんぽんと藤くんの身体に手を当てた。
「おやすみ」
そう声をかけた時にはもう穏やかな寝息が聞こえてきていた。もう一度、小さく、おやすみ、と声をかけて私も目を伏せた。