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サイレントエモーショナルサマー
第31章 istinto
昼休憩が終わってしまうからと早く食べるように促せば面白くなさそうな顔でフォークを手に取る。一体、なにが不満だというのか。オムライスの気分ではなくなったとか?
「どうしたの。オムライス嫌だった?」
「…いや、俺ってまだまだなんだなって思って」
首を傾げると、藤くんは何度か瞬きをしてにこりと笑って、食べましょ、と小さく言った。昼食を終えて店を出るとまだ時間に余裕があったので食後のコーヒーは近くのカフェで飲むことにした。運が良いのか悪いのか横並びで座るタイプのソファー席が空いており、そこに座ると藤くんは少し機嫌が良くなった。
「何色が良いですかね。藍色か、この深めの緑も珍しくて良いですね」
流石に私を足の上に乗せることはしなくても、太腿がぴったりくっつく距離で藤くんのスマホを覗き込む。これもいい色だね、と画面を指さすと大人しくしていた彼の左手がすっと腰に回ってくる。これは、まずい。察知しても時すでに遅し。服の上からきゅっと脇腹を摘ままれ、漏れそうになった声を必死に飲んだ。
「……ちょっと、」
「ん?なんですか?」
なんですかじゃないよ、と声をあげようとすれば、ちゅっと唇を奪われる。こいつ!誰が見てるか分からないと言うのに。
「……怒るよ。約束したでしょ」
「今は仕事中じゃないですよ」
「…じゃあ会社戻ろう」
「嫌です。ごめんなさい。まだちょっと時間ありますよ。ね、あと5分だけ」
もう、と息をつく。眉根を寄せて藤くんの顔を見ると、その顔もかわいい、とにっこり。私はそろそろ藤くんの取扱説明書が欲しい。
残りの時間でもう一度HPを見て、浴衣の柄を選んだ。結局私の浴衣は藤くんのチョイスで萌黄色のベースに白っぽい花柄の入ったレトロなものになった。
藤くんの横顔に企みの色をありありと感じながら会社に戻った。真面目に仕事に取り組む藤くんを見守りながら私も業務に勤しむ。定時を少し過ぎた頃に帰っていった彼を見送って、私も早めに帰路に着いた。