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サイレントエモーショナルサマー
第31章 istinto
◇◆
「…志保、電話鳴ってる」
「え?チカかけてる?」
「なんで私がかけるのよ。あ、浩志だよ」
チカの家へ戻り、夕食を済ませてのんびりテレビを見ていると充電ケーブルに接続した私のスマホの画面が光り出す。チカ寄りに置いてあったので画面が見えたらしい。渡されたそれを受け取って応答ボタンを押しながら立ち上がる。
「もしもし?」
『……おう』
「おう、って…かけてきたのそっちでしょ。どした?今週やっぱり外回った方がいい?」
『いや、仕事じゃなくて』
「大丈夫、今日は飲んでないし、22時からのチカのおすすめのテレビ見たら寝るよ」
『……そうか』
廊下の方へ出て通話に応じたものの浩志がなにを思って電話を寄越したのかよく分からない。短い沈黙。手のひらサイズの機体を介しているのになんだか浩志がすぐ傍に居るような気がする。
「あ、そうだ。浩志もう実家帰った?いつ戻ってくる?今週の土曜ね、ミヤコちゃんたちと花火大会行くことになって、浴衣着るんだ。私さ、そういうのして来なかったから楽しみで…」
『土曜に戻る。俺も間に合えば行くよ』
浩志の実家へはあのバイクだと3時間もあれば帰れるだろう。去年、お土産で貰った野沢菜の漬物は美味しかった。それを思い出しながら口にすると、彼はその土産について連絡を寄越したらしい。お前の友達もいるかどうか聞いてくれと言われ、通話状態のままチカの元へ戻る。
「チカ、浩志が野沢菜の漬物食べられるかって」
「あれさ、白ワインと意外と合うよね」
要は好物の部類に入るらしい。再び廊下に戻って浩志にそれを伝える。