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サイレントエモーショナルサマー
第31章 istinto
どうやら実家のお母さんが大量に手配してくださったそうで週末にこっちの浩志のマンションに届くと言う。
『…ったく、気が早いんだよ。今日帰ってきたとこなのに』
「浩志のお母さんって面白いよね。帰ったらまた話聞かせて」
『ああ、まあ、適当にな。じゃあ、切るわ。藤のことあんま甘やかすなよ。おやすみ』
「ん、おやすみ」
浩志のお母さんは結構チャーミングなお方で、彼は私に気を使ってあまり実家の話をしたがらないが、私は彼の実家トークを聞くのが好きだった。土産話が楽しみだな、と通話を終えたスマホを片手に戻るとチカがこちらをじっと見つめてくる。
「あれ?テレビもう始まる?」
「野沢菜だけが用件?」
「そうだったみたい。あと、藤くんのことあんまり甘やかすなって」
「ふうん。不器用な男よのう…」
「どういう意味?」
「野沢菜なんか建前よ。多分、あんたの声聞きたかったのと藤くんが大人しくしてるか不安だったんじゃない?」
まさか、と答えながらチカの隣に座り直してスマホを手渡す。充電ケーブルに接続してくれたチカの顔にはにやにや笑いが乗っかっている。
「明日、またかかってくると思うよ」
「来ないよ」
「じゃあ賭ける?」
「おうとも」
「じゃ、明日また浩志から電話あったら、明後日帰りにエスポワールのチョコレートケーキ買ってきて」
「いいよ。じゃ、電話なかったら……思いつかないから明日考える」
チカのご所望のチョコレートケーキは1本7500円もするバカ高いケーキである。浩志が建前どうこうなんて面倒なことをする奴だとは思えなかったので安請け合いしたが大丈夫だろうか。