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サイレントエモーショナルサマー
第31章 istinto
「藤くん!返して!」
「……藤です。俺もう我慢できないんで志保さん連れて帰ります」
手を伸ばして奪い返そうにも、ぎゅっと腕ごと抱き締められて身動きが取れない。微かに浩志の声が聞こえる。
「藤くん!こら!返しなさい!」
力一杯もがいた。腕の拘束から抜け出すが、今度は藤くんの片手であっさりと両手首を掴まれる。ちょっと!と声をあげれば、藤くんは自分の耳に私のスマホを当てたまま唇を寄せてくる。わざと大きくぴちゃぴちゃと音を立て、舌を絡め取る。
浩志に聞こえてしまうかもしれない。この湿っぽい音も、私の乱れた呼吸も。
でも、抗えない。私の本能は藤くんのキスを、彼とのセックスを求めている。
『都筑、』
酸素を奪う長いキスで朦朧とし始めると耳元で機械越しの浩志の声。はっと目を見開くと藤くんの手によって私の耳元にスマホが添えられている。
「……浩志…あっ…」
かぷりと首筋を噛まれる。嬌声を飲み込むのは間に合わなかった。首筋を噛んだ藤くんはそのままねっとりとそこを舐め、顎や頬、耳の付け根にキスをしていく。
「やだ…藤くん…」
「もう、セックスしたくて堪らないって顔してるのに。本当に嫌なんですか?」
早く、電話を切ってくれ。答えを浩志には聞かれたくない。
「答えて。中原さんに聞かせてくださいよ」
命令するような口調。だが、藤くんは柔らかく微笑んでいる。これは、私の答えなんて分かっている顔だ。ああ、そうか。月曜の昼になにやら企んでいるように見えたのは、今、この時のことを想定していたからなのかもしれない。
藤くんにとって想定外だったのは私が残業をしたことだろう。花火大会で土曜を取られるのにあっさり了承したのも、浩志が傍に居ない中で今日、欲求不満の私を引きずり込む気だったからだ。
「ずるいよ」
「あなただって」
藤くんの返答は私の想像が当たっていることを差しているように聞こえた。眉根を寄せて答えを渋るとまたとろけるキスが降ってくる。ダメだ。堪らない。どうしようもなく、気持ち良い。
「……したい」
「なにを?」
下腹部がぴりぴりと痺れている。なにを、と言った藤くんの声をスマホは拾い上げて浩志に聞かせているだろう。