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サイレントエモーショナルサマー
第31章 istinto

「言って、志保さん。なにがしたいの?」

鼻先が触れあいそうな距離で問われる。優しい口調なのに力強い。私を急かすように唇を舐めて、両手首を掴んだ手にきゅっと力を込める。

「…藤くんとセックスしたい」
「いいこ。…ってことなんで連れて帰りますから。これ、同意ですからね」

てめえ!とかなんとか聞こえたような気がしたが藤くんはさくっと通話を切断すると私のスマホを自分のボトムスのポケットに突っ込んだ。

ぎゅっと抱き締め直され、彼の背中に腕を回す。ああ、藤くんの匂いがする。この匂いも、静かな鼓動も、愛おしい。

「…荒療治間に合ってなくて良かった」
「……自分が情けない」
「そんな志保さんが好きです。帰りましょ。それとも中原さんのデスクでセックスします?」
「やだやだ。そんなことしたら殺される!」

ぞっとして首を振った。くすりと笑った藤くんは上手く体勢を変えて、私の額に口付ける。行きますよ、と促され、鞄を手に取る。揃って会社を出て駅に向かおうとすると、電車なんか乗ってられないと藤くんは迷わずタクシーを停めた。

約1週間ぶりの藤くんの部屋。玄関で靴を脱いでもたもたすればあっという間に抱き上げられてベッドへと下ろされる。胡坐をかいて、その上に私を乗せて。ちゅっちゅ、と何度もキスをしながら藤くんの手は私の服の中で素肌を撫でる。

下腹部の疼きが止まらない。きゅんきゅんと煩く喚いて藤くんを求めている。

もっと触って。服なんかはぎ取って、あなたの熱をもっとちょうだい。そんな思いで藤くんの首に腕を回し、口内を暴れ回る舌を柔く噛んだ。

唇を離すと私の念が通じたのか、彼は私の服を脱がせにかかった。下着だけの姿にすると無言で私の指を自分のシャツのボタンへと導く。

ぷつん、ぷつん。ひとつずつ外していく。最後に藤くんとセックスをした日に付けたキスマークはすっかり消えている。
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