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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla

物悲しい沈黙を携えて電車に乗った。目的の駅が近づいてくると少し口数が増えて、今日は誰が来るんだろうなんて話になった。藤くんはミヤコちゃんが声をかける人員だから森さんとか、総務の成瀬ちゃんあたりと多分村澤さんとかも来るんじゃないかと言った。

そこで、私は気付く。私は浩志とは親しくしていたが、社員たちの交友関係になどまるで興味がなかった。藤くんとミヤコちゃんが親しそうだというのも彼らが同期でなければ感じなかっただろう。

藤くんの予想通り店についてみるとミヤコちゃんの他に森さんと村澤さんの姿があった。あと何名か男性社員にも声をかけているらしいが浴衣を着たがったのは村澤さんと藤くんだけらしい。

店はこじんまりとした3階建てのビルだった。1階は受付と待合スペースになっており、男性の着付けは2階、女性の着付けとヘアセットは3階でやってくれるという。

「……都筑さんって結局どっちと付き合ってるんですか?」

淡い桃色の浴衣の着付けをしてもらいながらミヤコちゃんが言った。う、と息を呑んで視線を逃がそうとしたが、彼女のくりくりとした可愛らしい瞳はばっちり私を捉えていて逃がしてくれそうにはない。

「ど、どっちつかずで…自分でもどうしたらいいのか」
「羨ましいです。私も一度でいいから取り合いとかされてみたかったなぁ」

苦しくも言った私に水色に金魚が泳ぐ浴衣の着付け中の森さんがうっとりと言う。いやいや、うっとりしている場合ではないのだ。まともな感覚を取り戻しきる前にこんなことになってしまって、私は少なからず困惑している。

「でも、早いとこどうにかしないと都筑さん危ないですよ。藤はともかく中原さんも割とモテるし」
「そうそう。藤くんは観賞用だけど、中原さんはマジになっちゃってる子結構多いみたいですよ」
「えっ…そうなの?」
「そうですよ。都筑さんが中原さんとは友達だとかって言ってたから自分にも可能性あるかもって思ってる子何人か知ってますし」
「……まじか。今まで浩志のことそういう風に見てなかったから戸惑うな」

浩志も、モテるのか。なんかそれはちょっと面白くない。何故?私は今、どうしてそれを面白くないと思ったのだろう。ふるふるとかぶりを振ると着付けをしてくれているおばちゃんに動くなと怒られた。
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