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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla
身体を投げ出すように放られた。バランスを取りながらも勢いよく振り返ればにやにやと笑った隼人が立っているではないか。
「……なに?」
「しーちゃんこそ、おめかししちゃってなにしてんの?」
「花火見にきたに決まってんでしょ」
じろりと睨んでから言って路地裏から抜け出すべく隼人に背を向ける。だが、彼は私の手首を痛いくらいに掴んで無理やり自分の方を振り向かせた。
「なんなの!離してよ!」
「あんたさ、徹底的に帰ってこないよね。俺のことバカにしてんの?」
「バカにしてんのはどっちだよ!あんなことして…警察に突き出してないだけ感謝して欲しいね」
「まあ、あれは確かに酷いことしたと思ってるよ。思ってるけどさ、逃げるしーちゃんが悪いじゃん」
じっと私を見ているらしい視線。表情は暗がりの所為でよくは見えなかった。花火の明かるさでその顔が鮮明になると軽薄な笑みを消した真剣な表情がそこにあった。隼人はいつもへらへらと笑って、人を小ばかにしたような態度を取るやつなのに。
「人と一緒なの。心配させるから戻らせて」
「人ってあのイケメン?それとも3Pしたときのあの男?」
「あんたには関係ない」
「関係なくないし。しーちゃんがそうやって逃げれば逃げるほど俺はあんたが欲しくなるんだけど」
言ったかと思うと隼人は私の腕を強引に引っ張って歩き出す。どんなに力を込めて振り払おうにも武骨な手で掴まれた手首が痛むだけだった。
下駄が脱げ落ち裸足になっている所為で足も痛い。そこに鈍い痛みが加わって後ろを見ると歩いてきた道にぽつぽつと血が落ちているのが見える。なにかで足の裏を切ってしまったようだ。
「ねえ!離してよ!隼人!痛いんだってば!」
気付くと人気のない小さな公園まで引きずられていた。じりじりと足の裏が痛む。鬱蒼と生い茂る木々の間に放り出され尻餅をつく。