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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla
「…い、いいよ、おんぶとか恥ずかしいし、重いし」
「その状態で歩かせられない。それにお前昨日の電話の方が恥ずかしいと思わないのか」
羞恥で顔面に熱が戻る。そうだ。昨日、私は藤くんとセックスしたいとねだった声を浩志に聞かれていたのだった。ちッ、と舌を打った浩志はいいから早く乗れ、と私を促す。Tシャツ越しに広い背中に触れる。腕を回し、体重を預けると浩志の腕が回ってきて太腿の裏側から私の身体を支えた。
立つぞ、と短く言って私の返事を待ってから立ち上がる。汗ばんだ浩志の匂い。藤くんの優しい匂いとはやっぱり違う。
あたたかくて、大きな背中。藤くんも簡単に私を抱き上げるが、浩志もなんてことはないと言った素振りで私をおぶっている。
どこへ行くつもりなのだろうと思っていたら浩志はタクシーを停めた。運転手に告げた行先は浩志のマンションだ。花火はちょうどフィナーレに入ったところらしく、ひっきりなしに轟音と歓声が響いていた。
あまり見ることが出来なかった。それに綿あめも藤くんたちのところに置いてきてしまった。そんなことでしょげていると浩志が知れば怒るだろなと思ったので大人しくしておく。
十数分経って浩志のマンションに到着した。私をおぶりなおして部屋まで上がるとリビングではなく脱衣所に向かう。浴室の戸を押し開け、乾いた床に私の身体をそっと下ろすと彼はそのまま私の足に触れた。
「…傷はそんなに深くなさそうだな」
ちょっと待ってろ、と言って姿を消すと数分も経たぬ内に消毒液と大きな絆創膏を手に戻ってくる。顎で促され、手を伸ばしてシャワーのホースを掴んだ。
「いたっ…ね、痛い…」
「少しくらい我慢しろ」
「いたた…ちょ、ほんと沁みる!痛い!」
「あーもう、うるせえな」
土埃や血を洗い流していくシャワーのお湯でさえ傷に染みて痛かった。子供のように、痛い痛い、と喚くと浩志は私の足にシャワーをかけながら身体を伸ばして私の唇を塞いだ。驚いて目を開くと、探るように舌が歯列をなぞった。
薄く、口を開く。じりじりと入っていた舌先が私のそれに触れる。足の痛みなどどこかへ飛んで行った。今、一番気になるのは一瞬で破裂しそうな程の音を立てはじめた己の心臓だ。
「んっ…ふっ…ぅ」
手探りで浩志のTシャツの袖を掴む。なにこれ。下手くそなのに、ぎこちないのに、胸がきゅんと疼いて、下腹部も熱を持つ。