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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla
藤くんに付けられたキスマークを浩志に舐められる日がくるとは。今年の夏は想像もつかなかったことばかりが起こる。こそばゆさと気持ち良さでもぞもぞと太腿を擦り合わせると浩志はうなじを舐めながらふっと笑った。
かかった吐息にどきどきしていると放り出したスマホがけたたましい音を上げた。浩志が拾い上げたそれの画面を見ると藤くんの名前が表示されている。
「ちっ…しつこい奴だな」
無視するのだろうと思いきや彼は応答ボタンを押した。なにをするつもりだ。もがいても腕の力は緩まない。
「……なんだよ」
電話の向こうの藤くんへ言いながら浩志は再び私のうなじに舌を這わせる。ちゃんとするまで手は出さないんじゃなかったのか。まるで藤くんへの意趣返しだ。わざとぴちゃぴちゃと大きな音を立てている。
「はあ?なんでお前が都筑のスマホ持って…は?いい、お前は今日こっち来るな。邪魔すんなよ。お前に出来ねえことやるから。電話もかけてくんな。家帰って寝ろ」
藤くんの声は聞こえてこない。彼に出来ないことってなんだ?身を捩って浩志の方を向く。通話は先程と同じく一方的に終えたらしい。
「お前…あれだ、友達に連絡入れとかないとだな…番号覚えてるか?」
「覚えてる」
どきどきしながらも口頭でチカの電話番号を伝えた。私に電話を貸すかと思いきや彼がチカに話をするらしい。
「あ、中原…いや、浩志です。はい。都筑…怪我したとこ拾ったんで…あ、いや大した怪我じゃ…今日はこっちで寝かせます…明日帰します。それじゃ」
電話を終えると、ふうと息をつく。どうやら浩志にとってチカは結構緊張する相手らしい。顔をじっと見ていると、こっち見んな、と聞き慣れた毒。そんなことを言うなら私を抱える腕を離してくれ。
落ち着かない。浩志は浩志なのに、なんだか酷く落ち着かない。早鐘を打つ鼓動が苦しくなってきた頃に浩志はわしゃわしゃと私の頭を撫でてから立ち上がる。