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サイレントエモーショナルサマー
第33章 ombra
浩志はトイレにでも行っていたのか数分と経たず戻ってきた。ロックを解除する横顔を見ていると、こっちを見るなと言いたげな視線を寄越す。
「…浩志さ、村澤さんと森さんが付き合ってるの知ってた?」
「知らなかったっつーか興味持ってなかったのは部内でお前だけだ」
なんてこった。ぽかんと口を開けると、間抜け面はやめて仕事をしろと怒られる。そこから暫く仕事をして昼休憩の時間になった。藤くんは私をランチに連れ出そうとにこにこしながらやってきたが、村澤さんに話があるからと言うと子犬顔になってフロアを出ていった。浩志は蕎麦屋で済ませてくると言う。
コンビニでサラダとサンドイッチにコーヒーを調達して空き会議室に向かうと村澤さんは森さんの手作り弁当を広げてなんだか優しそうな顔をしているように見えた。色彩豊かで野菜が多めなお弁当。美味しそうだな、と見やりながら向かいに腰かけると、やらねえぞ、と釘。
「いただけませんよ。愛情たっぷり弁当でしょ」
「まあな。あいつが作ってくれたってだけで美味さ倍増」
「……村澤さんの惚気を聞く日が来るとは」
「俺だって都筑から昼飯誘われる日が来るとは思わなかった」
確かに。私も村澤さんと空き会議室で昼食を取る日が来るなんて一度も想像したことがなかった。サラダの封を開けドレッシングをかけながら、さて何から切り出すかと思案する。
「む、村澤さんと森さんってどっちから言い出して付き合ってるんですか」
「そりゃお前、俺だよ」
「……ほう」
「なんだ、聞きたいことってそれか?」
レタスを咀嚼しながら村澤さんを盗み見る。コロッケらしきものを一口食べてご飯へ箸を伸ばしている。
「…手、出したいって思わないんですか?」
私が問うと彼は思いきり咽て、苦しそうに麦茶のペットボトルに手を伸ばした。すいません、と言って蓋を開けたペットボトルを渡してやるとやや涙目になって私を軽く睨む。