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サイレントエモーショナルサマー
第33章 ombra
「お前、なんか聞いた?」
「付き合って1年になるのにキスもしないって」
「…あいつめ。……俺も迷ってんだよ。タイミング探ってんの。そしたら1年経ったってだけ」
「なにに迷ってるんですか?」
「大事にしたいって気持ちと、自分の欲望と闘ってんの。俺はそういう男だよ。中原もそうなんじゃね?」
「……なぜ、ここで浩志が」
「俺はあいつの押し出しに賭けてっから。藤はあれだぞ、たぶん味濃いぞ。お前には中原くらいが調度いいって」
「そう言ったご意見はノーサンクスです」
彼の言う通り藤くんは色んな意味で濃厚な存在である。だが、それが彼の持ち味だ。それに藤くんがあれだけ濃くなければ私はなににも気付けぬままだったに違いない。
「……付き合うのとかって恐くないですか?」
「お前ね、いい年してなに言ってんの?そりゃさ、多少は不安あるよ。でも、それがあるからってあいつと付き合わない理由にも、あいつを好きにならない理由にもならないって」
澱みなく言い切った村澤さんは少し格好良く見えた。そうか、不安があったっていいのか。私はきっと恐れすぎているのだろう。なんだか肩の力が抜けたような気がする。
サラダを食べ終え、サンドイッチに手を伸ばす。ぴりりとパッケージを開けてながら村澤さんの顔を見るといつの間にかまたにやにやしている。
「お前と恋愛トークしてるとか凄い面白い」
「……すみませんね」
「いいんじゃね。最近、お前ちょっと人間っぽくなってきてるし。あ、つーかさ、俺も頼みがあんだけど」
「…聞けそうなものであれば」
「今週の金曜さ、部長の知り合いの会社の人らと飲み会やれって言われてんだけどお前も来てくんない?」
「ええ…急だな…そういうの気乗りしないです」
「そこをなんとか。藤と中原は絶対参加させろって言われてんだよ。藤はまあどうにかするとしても中原はお前居ないと来ないからさ」
「……はあ」