この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
サイレントエモーショナルサマー
第33章 ombra

しばし悩んでひとり焼肉にしようと決めた。よし、今日はお金に糸目をつけず好きなだけ飲んで美味しいお肉を食べよう。ふんふんと無理やりご機嫌になって会社を出たところで私は出端を挫かれる。

「……」

ああ、そうだ。朝から今にも雨が降り出しそうだったのだ。昼にコンビニに行った時もいつ降るかという気配はありありとあった。よりによって今かよ。大粒の雨は今しがた降り始めたようだ。行き交う人々は折り畳み傘を差していたり、鞄で頭を守って走っていたりと様々である。数十分前に会社を出て行った浩志は雨に降られず駅に向かえただろうか。

「うわ、降ってきましたね」

深い溜息を吐いてどうしたもんかと暗い雨空を見ていると藤くんの声が背後から聞こえてきた。おつかれ、と声をかけながら振り返ると彼は鞄をごそごそして折り畳み傘を取り出す。なんて出来る子だ。

「志保さん、傘は?なかったら相合傘します?そしたら行き先俺の家ですけど」
「……焼肉屋にしない?」
「誘ってくれてます?」
「うん。なんか焼肉行きたいんだけどチカは今日帰り遅いみたいで」
「美味しい店知ってます。そこで良いですか?」
「行ってくれるの?」
「俺が志保さんの誘い断るわけないでしょ」

折り畳み傘を広げて、行きましょ、と微笑む。腕同士が触れあう距離でゆっくりと歩き出した。傘を叩く雨粒の音が煩いのに傘の中で響く藤くんの声は耳に心地良い。ざわざわと騒がしかった胸の内がゆっくりと落ち着いていくのを感じた。

藤くんのおすすめの焼肉屋は電車で二駅移動した先の小さな店だった。駅からは近いが分かりづらい立地。その割に月曜の19時30分過ぎにしては席が埋まっており、私たちが入ると満席になった。

「ラッキーでしたね。とりあえずビールだけ頼みます?」
「そうだね。あ、私、レモンサワーがいい」

元気溢れるお店のおばちゃんにビールとレモンサワーを頼んだ藤くんがメニューを広げる。目の前に居るのは藤くんなのにメニューを見ているといつも浩志が頼むものばかりが浮かんできて藤くんに気付かれないようにそっとかぶりを振ってそれを払い消す。
/586ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ