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サイレントエモーショナルサマー
第33章 ombra

ちびちびとレモンサワーを飲みながらタン塩やらハラミやらを堪能し小一時間が過ぎれば夜はあまり食べない私は満腹状態に近かった。藤くんはまだまだ余裕な顔つきでせっせと肉を焼いてくれている。

「志保さん、もうお腹いっぱいですか?あとなにか食べます?」
「んーちょっとだけ冷麺とあとシャーベット食べたい。藤くんは?足りてる?」
「目の前に志保さんが居るだけで俺はお腹いっぱいですよ」
「…そういうのいいってば」
「じゃあ、志保さんを食べたい」
「あのね…焼肉味のキスは嫌だ」
「歯、磨けばいいじゃないですか。志保さんの歯ブラシちゃんと残してありますよ」

藤くんはそう言ってから焼き上がった肉を小皿へと移してにこりとする。焼肉なんて可愛くなかったかな。バルとかイタリアンの方が良かっただろうか。さり気なくビールと冷麺を頼みながら残りの肉を平らげる藤くんはいつもより少し男っぽくてなんだかどきっとする。

何杯目か分からない藤くんのビールが運ばれてきて、その数分後には冷麺がやってきた。スープに浮かぶトマトを見て、藤くんはちょっと嫌そうな顔をする。この表情はかなり可愛かったりする。ふふ、と笑ってトマトだけ先に拾って食べると藤くんの表情が和らいだ。どことなく嬉しそうに見える。余程トマトを食べたくなかったのだろう。

デザートのシャーベットは珍しいカボスのシャーベットだった。少し苦味のある不思議な味で美味しい。うきうきとそれを食べていると藤くんの視線を感じる。

「…食べる?もう1個頼もうか」
「一口でいいです」

にこっと笑って言って、少し口を開く。これは、あれか。あーん、ってやつか。慣れないシチュエーションに折角落ち着いていた胸がどきどきと煩くなる。スプーンで一口分を掬い取る手が緊張に震えている。それを見た藤くんはくすりと笑って、早く、と囁く。

おずおずと藤くんの口元へスプーンを持って行くと彼はその私の手首を優しく掴んで誘導した。藤くんの手ってこんなに熱かったっけ。一口分のシャーベットを食べて自分の唇をぺろりと舐める様が妙にエロい。
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