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サイレントエモーショナルサマー
第34章 psicologia
「持ってきてんなら会議室で食うか?俺もなんか買って…」
「あ、待って…!」
席を立った浩志の腕を慌てて掴む。なんだよ、と見下ろす顔。見慣れた表情なのにどきどきする。
「……じ、実は…お弁当を作ってきたんだよね」
「……誰が」
「わ、私が…」
「もしかして…お前それで朝からそわそわして…」
目を瞠った浩志が声をあげ笑った。彼がこんな風に笑うのは珍しい。遠くで村澤さんが何事かとこちらを見ているのが見えた。浩志は一頻り笑うと、目尻浮かんだ涙を拭って私の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「ありがとな。なんか飲みもん買ってくるから会議室で待ってろ」
「…ん」
フロアを出ていく浩志の背中を見送って大きな保冷バックとカップケーキ入りの紙袋を抱え会議室へ移動した。落ち着かず、そわそわ待っていると数分でお茶のペットボトルを手にした浩志がやってくる。
「…卵が、焦げてない」
「そうなの。凄いでしょ、チカが見ててくれたらね、ちゃんと焦がさないで作れるんだよ」
「お前もやれば出来るんだな」
偉い偉い、と言うように浩志の手は再び私の頭を撫でる。並んで座った彼に割りばしを差し出して、じっと見つめる。ぱきん、と割りばしの音。箸は迷わず卵焼きへ向かう。痛み対策はばっちりである。問題は、味だ。朝の味見の時点では特に問題は感じなかったが、浩志は美味しいと言ってくれるだろうか。
「……美味しい?」
「美味いよ。お前が作ったとは思えない。殻も入ってないし」
「一言余計なんだよ」
「悪い悪い。ほんと美味いって」
「から揚げも食べてください」
「やけくそな量だな」
「……藤くんも食べるかなと思って」
「そんな顔すんなよ。あいつの分も俺が食うから。ほら、お前も食え」
自分の手の中だと大きく見えるおにぎりが浩志の手の中にあるとなんだか小さく見える。ラップをはがして、一口。