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サイレントエモーショナルサマー
第34章 psicologia
宣言通り藤くんの分も平らげてくれた浩志は満腹で午後うっかり寝そうだと笑った。眠気覚ましにコーヒーを買いに行こうかと声をかけながら弁当の残骸を片付ける。
「お前、その紙袋は?」
「あっ…これは…いいや」
「なんでだよ」
「……笑わない?」
「笑わねえから」
2人分の弁当を食べさせた挙句さらに食べ物を見せるのは憚られたが、そっと会議テーブルの上に紙袋を滑らせる。浩志はそれを覗き込んで少し目を丸くした。
「……お前、なんかあったのか」
「ひ、浩志がこのくらい出来た方が良いって!」
「……ふうん」
「似合わないことしたって分かってるってば。いいよ、これは持って帰って夜食べるから」
「貰うよ。折角お前が作ってくれたんだから」
10個あったカップケーキの内、3つはチカが会社に持って行った。浩志と藤くんに2個ずつ包んで残りの3個はチカの家の冷蔵庫で眠っている。
「…まあ、これくらいは分けてやるか」
「ん?なに?」
「なんでもねえよ」
そっと微笑んだ浩志は紙袋の中から包みをひとつだけ取り出すと、ありがとな、とまた私の髪をわしゃわしゃする。この手の感じは結構好きだ。こそばゆくて、胸の奥があたたかくなる。つい、頬が緩むのを感じた。
会議室を出てからコーヒーの調達に行こうとエレベーターホールへ向かうとちょうど藤くんたち3人が戻ってきた所だった。藤くんは私と浩志に気付くと少し面白くなさそうな顔をする。ふと隣に立つ浩志の横顔を見るとなんだかにやりと笑っているようだ。
「都筑、弁当美味かった。ありがとな」
わざとらしい浩志の声で適当な挨拶そこそこにフロアに戻りかけていた藤くんの足がぴたりと止まった。ぎょっとすると同時に藤くんは私たちのところへ戻ってきて私の手を掴む。