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サイレントエモーショナルサマー
第34章 psicologia
「べ、弁当って志保さんの手作り弁当ですか?俺の分は?」
「お前の分は俺が食った」
「はい?え、なんで言ってくれなかったんですか?」
「いや、ほら…カレー食べたいって思った時ってカレー食べるまで気が済まないかなと」
「カレーなんかより志保さんのお弁当の方が良いに決まってるじゃないですか。言ってくださいよ」
店のカレーの方が間違いなく美味しいだろう。この世の終わりみたいな顔をしなくたっていいのに。浩志は変わらずにやにや笑っている。
「……俺も食べたかった」
「き、気が向いたらまた今度作るよ」
「いつですか?明日?」
しゅんとしょげる顔が可愛い。よしよしと手を伸ばして髪を撫でるが、私の想定よりショックらしく中々表情が浮かない。あとで渡したいものがあるから、と藤くんに告げてとりあえずフロアへ戻した。浩志と共にエレベーターに乗り込むと扉が閉じた途端、彼はくつくつと笑い声を上げる。
「…ほら、お前気使いすぎなんだよ。自分が作ったんだから食え、くらい言ったって平気だって」
ああ、そうか。どうしてわざわざ藤くんにアピールするようなことを言ったのかと思ったが、彼に対する挑発の意味よりも前に、私に遠慮するなと言いたかったのかもしれない。
「…ありがと」
「……おう」
浩志の優しさは少し、分かりづらい。でも、そこが彼らしいと思う。照れくさそうになった顔を見ているとこっちもなんだか照れくさくなる。