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サイレントエモーショナルサマー
第34章 psicologia
言葉が上手く出てこない。浩志には何でも言いたいことを言えたのに。吐き出しかけた溜息を飲み込んで成瀬ちゃんから受け取った包みを浩志に渡した。そのままデスクにはつかず紙袋をひったくって、半ば走るように給湯室へ戻った。
藤くんはスマホを弄りながら壁に寄りかかっていた。おかえりなさい、と微笑んだ顔。藤くんの部屋の光景を思い出した。気持ちはゆっくりと凪いでいく。
「……今日、藤くんのとこ行きたい」
「今日、土曜でしたっけ」
「…水曜だね」
「いいんですか?」
こくりと頷く。髪を撫でて私を抱き締める腕。縋りついて、胸元に額を押し付けた。
「……私も藤くん不足なのかもしれない」
「なんですか、それ。かわいいじゃないですか」
「なんか凄い苛々するの。藤くんのとこに居た時は全然しなかったのに」
「だったら早く帰ってきてください。いつだって俺は志保さんを待ってますよ」
分かってる、ごめんね。声には出さず胸の内で呟く。考えたいから、逃げたくないから、とチカの家に転がり込んだくせに私は結局藤くんのぬくもりに逃げ込もうとしている。
「あなたはずるくて、弱い人。もっと俺に甘えてください。俺なしではいられなくなればいい」
そう言って怪しくも美しく私を見据えた瞳の中の思惑をいつか知る日が来るのだろうか。