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サイレントエモーショナルサマー
第34章 psicologia

夕食の支度が整って向かい合って座った。いただきますの声が被さって笑い合いながらグラスを傾ける。よく冷やした白ワインがゆっくりと喉を潤す。

「志保はさ、ずっと考える考えるって言ってるけど、それはあのふたりを傷つけない方法でしょ。そうじゃないよ。彼らが願ってるのは自分の気持ちが実るかどうかよりあんたの幸せだよ」

温めたエビチリに箸を伸ばしてぽつり。チカの顔を見れば、にこりと微笑んでいる。目頭の奥がつんと熱くなる。なんだろう。変な感じだ。涙が出そう。

「なんなの、その泣きそうな顔は」
「……チカが、友達でいてくれて良かったなって思って」
「ばか。私も同じこと思ってる。志保が私の友達で良かった。志保が居たから私の『今』がある。あんたの孤独は私には埋められない。だけど、手助けは出来る。私が今、やってることはあんたの為じゃない。私が、志保の幸せを見たいからやってるの」

笑って食事を取りだしたのに気付けば揃って泣いていた。泣きながら食べたエビチリ。チカが作った方が美味しいね、と言えば彼女は、当たり前でしょ、と泣き笑い。

「志保はあのふたりのこと懐に入れ過ぎたね。だから『傷つけたくない』が先に来ちゃうの。もっと楽になりな。『どうしたくないか』よりも『どうしたいか』を思うんだよ。肩の力を抜きなさい。そうしたら好きって自覚したときみたいにふとした瞬間に答えが出てくるかもよ」

夕食の後にチカは濃いめのコーヒーを淹れてくれた。脳裏に高校から大学までアルバイトをしていた喫茶店のマスターの顔が浮かぶ。志保ちゃん、ゆっくりでいいよ、頑張りすぎなくていいんだよ、とあの人も濃いめのコーヒーを淹れてくれたのだった。
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