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サイレントエモーショナルサマー
第35章 astuto
フロアを出てエレベーターを待っていると藤くんが歩いているのが見えた。お手洗いからフロアへと戻るところだろう。小さく手を振ると、にこっと笑って私の隣に立つ。
「どこ行くんですか?」
「コンビニ。一緒に行く?」
「もちろん」
揃ってエレベーターに乗り込んで、1階のボタンは藤くんが押した。僅かな距離を詰めて彼のシャツの裾を引く。どうしたの、と私を見下ろす視線は優しい。
「明日、何時に待ち合わせます?」
会社の近くのコンビニに入って意味もなくスイーツの棚を見ていると藤くんが言った。そうか、明日は土曜だ。あの花火の日からあっという間の一週間。もうすぐ8月が終わる。答えが出ぬまま季節は巡るのだろうか。
ふとした瞬間に答えが出るのかもしれないとチカは言った。それは、いつだろう。もしかしたら私が気付いていないだけで私の胸の内には答えの芽が出ているのかもしれない。
「…志保さん?」
「あ、ごめん。11時くらいにする?」
待ち合わせ時間を決めながらウコンドリンク数本を買ってコンビニを出る。藤くんはついてきただけで何も買わなかった。会社へと戻る道すがら買ったばかりのドリンクを藤くんに1本あげた。
フロアに戻ってからはそれぞれのデスクにつく為入り口で別れる。私が戻ってきたことに気付いてPCから顔を上げた浩志にもドリンクを渡しながら椅子に深く沈む。
どこか遠く、人の声のないところへ行きたい。藤くんと行った島に流れる空気は心地よかった。そうだ、こういう些細な願望を並べてみよう。その中にきっと答えがあるような気がする。