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サイレントエモーショナルサマー
第35章 astuto
◇◆
村澤さんの仕切りの異業種交流会は会社から三駅先のレンタルスペースで催された。部長の知り合いが社長を務める小さな輸入雑貨の会社の社員たちは殆どが女性で年齢は私と同じくらいの人が2人とあとはミヤコちゃんと近い子が多いようだ。
ソファーがずらりと並び、ガラスのテーブルには様々な料理と各種アルコールが並んでいる。地下の個室の奥の方で藤くんは見知らぬ女性陣に囲まれ、たじろぐでもなく慣れた様子で愛想を振りまいている。
流石のモテっぷりの藤くんに反して浩志は酷く不機嫌そうにシャンパングラスを傾けながら左隣に座った女性からやたらと声をかけられている。だが、生返事で応じているようで口元は殆ど動いていない。
「お酒、足りてますか?」
ふたりを観察していると相手方の数少ない男性社員がワイングラスをふたつ持って私の隣に座った。
「いえ、お酒は結構です」
見知らぬ人が多い中で赤ワインなんぞ飲めるか。にこりと笑ってオレンジジュースのグラスを掲げると彼は私に酒を勧めるのは諦めたようで、小さく肩を竦めて持ってきたワイングラスに口をつける。
「そちらは皆さん仲が良いんですね。あ、僕、柴崎って言います」
「仲、良いんですかね。私、都筑です。そちらも女性が多くて華やかそうですね」
「いやいや女性ばかりで僕、肩身が狭くて」
気を抜くと、へえ、そうですか、と言ってしまいそうだった。まるで興味が持てない。私がこの場に居るのは浩志を参加させるエサになる為である。出来るものならしれっと抜け出して帰りたい。
ふと視線を感じてそちらを見ると浩志がただでさえ深い眉間の皺を更に深くして私を見ていた。口元が僅かに動いてなにか言っている。5音のようだ。どうせ酒飲むなとかそんなところだろう。