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サイレントエモーショナルサマー
第36章 pavida
テーブルを叩きかねない勢いで私を笑い飛ばしたチカは残り少ないビールを飲み干すとにこりと微笑んだ。その顔を見て、彼女は私の中に浮かんだ答えの正体に気が付いているのだと分かる。
「…チカって凄いよね。ほんと、チカの言うとおりだった。色々考えてたけどさ、答えのきっかけって思ってたより些細なことだった」
言いながら最後のハンバーグを口に運ぶ。温くなったビールを喉に流し込んで、一息。チカは徐に身を乗り出して私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「臆病者のあんたにひとつだけ誓う。終わらない友情は私があげる。だから、終わらない愛情は『彼』から貰って、返していきな。大丈夫。あんたは独りぼっちじゃないよ」
「……ありがとう」
「よし。じゃ、家帰って飲み直そ」
頭から離れ、私の頬を抓った手はするりと伝票をかっさらった。さっさと席を立つ彼女を慌てて追いかけて、会計を済ませ店を出る。コンビニに寄って缶チューハイやらなにやらを買いながら、昔はよくファミレスで喋ったよね、と思い出話に花が咲いた。
マンションに戻ってからは『未来』のことをたくさん話した。私が、いつユウジさんとセックスするの?と茶化せばチカは思いきり咽て私の足を抓る。照れているのだ。チカにも可愛いところがある。
先のことを語りながら抱えている不安を漏らせば、それが私らしさだとチカは笑った。
「それで、どっちから先に話すの?」
「…私としては先に藤くんと話したかったんだけど…でも明日浩志に会うし、浩志に話すかな」
飲み散らかした空き缶やらを片付けて、寝る支度をしながら問われ答える。ああ、そういえば浩志に連絡しなければ。歯ブラシを咥えつつ電話をかけてみたが、繋がらない。まさか、浩志にもなにかあったのか。二度、三度とかけてみても繋がらないので一先ずメッセージを送り、藤くんにも彼を案じるメッセージを送った。