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サイレントエモーショナルサマー
第36章 pavida
◇◆
「連絡ないの?」
「…ない。なんかあったかな」
朝食のクロワッサンを咀嚼しながら皿の隣に置いたスマホの画面を覗き込む。電話もかけ直してこなければ、メッセージにも返信がない。藤くんからも返信がなく、想定外の状況に不安が煽られる。はあ、と深い溜息を吐くと、朝から辞めろと怒られる。
「ふたりともなんか察したのかね。君ら、揃いも揃って臆病者なのよ」
「……とりあえず藤くんは臆病じゃないと思うけど」
「私には藤くんはあんたが居なくなるのを恐がってるように見えたよ」
チカにはそんな風に見えたのか。そっか、と返してコーヒーを啜る。しゅんと肩を落とすと沈黙を保っていたスマホの画面がぱっと光った。そこには浩志の名前が表示されている。
「もしもし?浩志?」
『……悪い。風邪引いたっぽい』
「大丈夫?なんか持っていこうか?」
『いい。今日は寝てるから。じゃあな』
ぶつりと切断音。気だるげな声の余韻が耳に残る。画面の暗くなったスマホをほっぽり出す。風邪だって、とチカに言いながら食器を片づけるべく立ち上がる。
浩志は弱っている姿はあまり見せたがらない。こういうところも藤くんとは対照的だ。藤くんだったら、きっと傍に居てと言うのだろう。ひょっとすると、昨日の彼は熱でも出していたのかもしれない。どうしよう。藤くんのところにも行った方が良いのだろうか。
考えたところで行動に移さなければなににもならない。食器を洗い終えると浩志と会わないなら映画でも行くかと言ってくれたが、それを断って浩志の様子を見に行くことにする。
簡単に支度をしてチカに見送られて家を出る。浩志のマンションの最寄駅近くのコンビニであれやこれやと買い込んでからマンションへ向かった。