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サイレントエモーショナルサマー
第37章 Passione

「でも…中原さんの隣にはいつも都筑さんが居るし…それに最近は藤さんと3人で仲良さそうにしてて…羨ましくて…見てたいのに見たくなくて…」

あれが仲良さそうにしているように見えていたとは驚きだ。

私が成瀬ちゃんにかけられる言葉はあるのだろうか。彼女が手作りの菓子を持って現れる度によく分からない苛立ちを覚えていたのは事実だ。あれがあったから私は自分が浩志に抱いている感情がなんなのかを理解できたのだと思う。

前に進んだつもりでいても、私はまだ『他人』の感情には無頓着なままなのである。だから、意図を汲み取ろうとはしたものの成瀬ちゃんが手作りの菓子に込めた想いになど興味は持たなかった。

形はどうあれ、彼女なりの恋慕があったのだろう。だが、それを伝える相手は私ではない筈だ。

答えは出ている。でも、それを彼らよりも先に成瀬ちゃんに伝えたくはなかった。ゆっくりと息を吸い込んで、力なくテーブルの上に投げ出されていた彼女の手に自分のそれを重ねる。

弾かれたように顔を上げた成瀬ちゃんの涙で濡れた瞳は美しい。

「ごめんね、私がふらふらしてる所為で知らない間に成瀬ちゃんのことも傷つけてたね。でもね、その好きって言う大事な気持ちを言う相手は私じゃないんじゃないかな。私には偉そうなこと言う資格ないと思うけど、本人にぶつかっていかないとその想いはいつまで経っても届かないと思うんだ」

自分の想いを伝えることは恐い。年齢だけは重ねてきた私だって臆病になっている。でも、言葉は口にしなければ伝わらない。私も、彼らも、成瀬ちゃんも生きているのだ。自分の想いを、感情を、伝えることが出来る。

「応援するとか、協力するとか安易なことは言えない。だけど、ひとつだけ言えるのは浩志は人の真っ直ぐな気持ちを気味悪がったり、不愉快に思ったりするような冷たい人じゃないよ」

だから頑張って、とは言わない。言ったところで意味などない。

声をあげず、ただ静かに泣き続ける成瀬ちゃんを放って帰ることも出来ず、彼女が泣き止むまで付き合った。メイクがどろどろになった顔を隠すように俯いて、小さくすみませんでしたと謝った彼女を駅まで送り届けて帰路に着いた。
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