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サイレントエモーショナルサマー
第37章 Passione
「いやーまさか藤くんがこうくるとはね。まんまと踊らされちゃって」
「別に踊らされてないし」
「踊らされてるから苛々してるくせに。まあ、でも良かったんじゃない?あんたと同じ不安があって藤くんも勝負に出たんだろうし」
言いながら珍しくカルピスサワーなんてものを飲んでいるチカはにやにやと笑っている。くそう。
「……どうしよう、チカ。もうやばい。ハンティングしちゃうかもしんない」
「待って。待とう。待ちなさい。ハンティングは辞めなさい」
「チョコレートそろそろ効果なくなりそうなの。もう、いっそチカでもいい。裸で私を抱き締めて」
「落ち着こうか。裸は無理だけど抱き締めるだけならしてあげるからこっちおいで」
呆れ顔で手招きされ、ソファーを降りてテレビの近くに座っていたチカの元へいく。いいこいいこ、と頭を撫でてからぎゅっと抱き締めてくれる。あたたかい人肌を感じると荒れていた胸の中はゆっくりゆっくり凪いでいく。
ああ、そうか、セックスなんてしなくたってこうして触れあっていればそれだけでこんなに満たされるのか。今までの私はやはり寂しいままだったのだ。孤独で、寂しくて、だから人肌を求めていた。
「……チカ、大好きよ。ありがとう」
「私もおバカでポンコツな志保が好き。あの頃、もう少しこうしてあんたに触れれば良かったね。言葉も大事だけど、あの頃のあんたはこうやって誰かに抱き締めて欲しかったんだね」
「いいよ、もう。あの頃、強がった私がバカだったの。それに、あの頃があったから今の私がいるんだし」
思い返しているのは両親と死別した夏のことだ。彼らを泣いて責めて弱っていく私にチカはたくさんの言葉をくれた。だけど、私はチカを心配させたくなくて強がって、もう平気だよと立ち直ったフリをした。
何故だかふたりして涙して、同じ布団でくっついて眠ろうということになった。中学の頃の林間学校が懐かしいとチカは言ったけれど、私はその頃のことなどまるで覚えていなくて、それを言うとあんたはそういうとこあるよね、と頬を抓られた。