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サイレントエモーショナルサマー
第38章 affetto
断続的に鳴るコール音を聞きながら通りを行き交うタクシーに目を配った。空車が中々通らない。焦れて溜息をつくと、かけ続けていた電話は音声が切り替わり、電波の届かないところ云々といった電子メッセージが流れてくる。
しゅんと肩を落として通話を切った。一先ずメッセージを送ろう。画面を見つめ、文字を打ち込んでいく。
「危ない!」
突如として響いた声に顔を上げる。視線の先、横断歩道から少しずれたところで小さな女の子がふらふらと歩いている。私の位置からはそう遠くなかった。女の子の視線は空を舞っていく風船に向いている。
スマホも荷物も放り出し、咄嗟に駆け出した。鳴り響くクラクション。地面を擦るタイヤの音。必死に手繰り寄せた小さな身体はとても熱かった。
背中に衝撃。あまりの痛みに悲鳴すらも出なかった。頭も打ちつけたらしく、意識が朦朧としていく。
コンクリートの上を転がった身体が焼けそうなほど熱くなった。息を吸うのも苦しい。私はこのまま死にゆくのだろうか。
ああ、そうか。これもツケだ。人の気持ちから逃げ続け、他人を切り捨ててきた私への本当の意味での『痛い目』なのだ。
もう一度、藤くんの声を聞きたかった。私を呼ぶ、あの優しい声を。
もう一度、抱き締めて欲しかった。木曜の晩、もうちょっと我侭を言ってもっともっと抱き締めて貰えばよかった。
ごめんね、藤くん。私は、あなたのことを、