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サイレントエモーショナルサマー
第38章 affetto
勢いよく開いたつもりの瞼は、じりじりと開いていったらしい。暗さの中でちらちらとくすんだ天井が見える。
頭はぼんやりとしていて、周囲の雑音もフィルター越しのように聞こえた。随分と慌ただしい。なんだよ、もう。静かにしてよ。うるさいなぁ。そんな思いで瞼を下ろそうとすると、起きろ!バカ!と聞き慣れた声が響く。
「………チカ?」
「良かった……今、先生呼んでくるから」
何度か瞬きをするとぼやけていた視界は色を取り戻した。チカの背中が小さくなっていく。間を置かず、男性医師がパーテーションの合間から姿を現した。
幾つかの問診と触診があり、不思議と受け答えはスムーズに出来た。酷く喉が渇いていて声が少し出しづらいくらいだった。
どうやら私が意識を失っていたのは数時間程度だったらしい。車には撥ねられずに済み、幼い女の子を抱き締めて道路を転がっただけで済んだようだ。気を失ったのは縁石に強かに頭を打ち付けた所為だと言うことで一晩集中治療室で過ごした後、明日以降は一般病棟に移り、MRIやらなにやら様々な検査を行うのだと聞いた。
顔や身体中がひりひりとして痛かった。見てみるとそこかしこに大きなガーゼや絆創膏が貼られている。
「明日また来るから」
「…ごめんね、心配かけて。ありがとう」
マスク姿のチカは心底ほっとした様子で小さく手を振って帰っていった。私も手を振り返したかったが腕が上手くあがらず、曖昧な表情で見送った。