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サイレントエモーショナルサマー
第38章 affetto
これといった見送りもなにもなく、藤くんと手を繋いで病院を後にする。入院している間に9月になっていたが、まだまだ外は暑かった。タクシーに乗ろうとする藤くんを制して、ゆっくりと歩きたいと言った。病院内をうろちょろしていたとはいえ、1週間ぶりの外の空気はなんだか新鮮だった。
救急搬送された病院から駅まではデートコースかと見紛うような道が通っている。現にまだじりじりと暑いというのに気まぐれに設置されたベンチでカップルが寄り添ってアイスを食べていたりする姿がある。
隣を歩く藤くんは少し落ち着かない様子だ。私の答えをまだ彼は知らないのだろうか。浩志の性格的にどういう結果になったかを彼は誰にも言っていないのだろう。ならば藤くんがなにかを勘違いしているままで居ても不思議はない。
「ね、藤くん」
「……はい」
立ち止まって繋いだ手の指を絡め直す。中々私の顔を見ようとしない。おかしい。顔の絆創膏は取れたのに。
「こっちを向いてください」
私が言うとゆっくりとこちらを向く。美しい瞳に浮かぶのは不安の色だろうか。ばかだなぁ。そんなの、もう必要ないのに。
「藤くんにお伝えしたいことがあります。場所を移す時間も惜しいです。今、言ってもいい?」
「ご、5秒待ってください」
「待たない。私、藤くんのこと好き。大好き。あなたを、愛してる」
どさりと音を立てて藤くんは私の荷物を地面に落とした。大きく目を見開いて私を見ている。君は、私に散々好きだって言ってくれていたのに私が言うとそんなに驚くのか。まあ、無理もない。
だが、ここで終わりではない。深呼吸。言え、言うのだ、都筑志保。今、言わないと好きだって伝えただけで満足してしまうかもしれない。
「だから…だからね、私と……」
あとは、付き合ってくださいと言うだけだ。こんなに勇気のいる言葉だったのか。今までの藤くんは今の私と同じくらいどきどきしながら言ってくれていたのだろうか。
「わ、私と、」