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第6章 窓口に現れない寮母さん

 「彰くん、何かゲッソリしてる」
 「うん、そりゃそうだよ、こんな生活してれば」

 目の前のコンロに火をつける。
 青い炎が今の二人にぴったりの何かに違いなかった。

 「ポトフ作ってあげるから」

 そのように私がいうと、Cは安心した顔をして、あの苺柄のシーツを掛けてあるソファベッドに戻っていった。
 コトコト、コトコトとイガリ・スーパーで購入したウィンナーと、近所の八百屋のキャベツ、そしてニンジンを一緒に煮込んだ。
 味付けは塩・コショウと何の変哲もないものだ。
 出汁はきっとウィンナーから染み出してくれるはず。

 「そろそろ出来るかなぁ」

 15分が経過していた。
 気づくとCがベッドに腰を掛けてDVDの続きを見ながら笑っている。
 その少女のようなあどけなさが私の胸を締め付けた。

 「出来たよ」

 Cの元へ、出来上がったポトフを入れたボウルを持ってゆく。

 「最近、大学の講義に行きたくないの」

 熱いポトフを二人でふぅふぅと摘みながら、そんな会話になる。

 「どうして?何かあったの?」
 「××っていう男性の教授が居るんだけど」

 私はCの話を聴いてただただ頷く。

 「もぅ、本当に授業が眠くなるの!」
 「うーん。困ったもんだね」
 「本当にどうかしてるってば!」

 暗に私とのこの生活(?)に飽きてきたと言っているのだろうか。

 「じゃあ、どういう授業だったら眠くならないの?」

 すると、こう言う。

 「難しい話は眠くなっちゃうでしょ。だから、もっとスリルあって甘いのがいい」

 私はこの件についてかなりの年数を経過してからであるが、後にこう思った。
 嗚呼、女ってのは4にたがるより生きたがる傾向のある生き物なのだと。
 
 目の前のCが私にポトフのウィンナーを食べさせる。
 私はそれを咥えて、しばらくしてから噛み砕き飲み込んだ。
 それから口の中で肉汁が弾けたように、私の中でも何かが弾け始めた。
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