この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Short ★ Short
第1章 トレンチコートのおんな

それで、二人ともお酒が回ってきた頃、こんな話になった。
「わたし、お金はいっぱい持ってるの。夫は資産家だからね。でも・・・・・・」
急に現実的な話になったなと思いながら、さっきの太鼓に深い意味があったのかが、やはり気になる。帰ってWikipediaで調べなきゃ!と思っていた。
マスターがサービスで赤ワインを出してくれる。鈍い照明、透き通ったステンドグラス、そしてAの深刻な呟きとその面影。
手元のグラスが、カウンターに深紅のいやらしい色合いの影を落としていた。
「そろそろ、22時になりますから、お開きにしません?」
私はあえて、彼女との談話から切り上げようとしたが、勿論、明日は出勤日であるからに遅くまで居座る訳にもいかない。それに、Aには子供が居る。
「Aさん、お子さんたち大丈夫ですか?」
「えぇ、家政婦さん居るから、大丈夫よ」
えっ家政婦雇ってるの?スゴいなと思った。
「でも、お母さんに居てもらいたいのが、お子さんたちの気持ちじゃないですかね?」
店内の客もそろそろ入れ替わってきている様だった。彼女のまつ毛や目元が、0.1カラットのダイヤのようにふと濡れていることに気づく。
「健也くんには分からないのかしらね、私の気持ち」
いや、分かってるよ。お前みたいな母親だったら、そりゃ子供も、なぁ、ねぇと。しかし、私は再び煙草に火をつけてから、黙って彼女の話に耳を傾け続ける。
「夫が冷たくてね。子供からも好かれてないだろうし」
「・・・・・・、いや、んー」
「家庭内別居状態なの、わたし」
なるほどなと思いながら、目をステンドグラスの方へ向けて、ただ黙想するしかなかった。目の前には、飲み干された後の空のグラスが二つ、綺麗に並んで置いた状態だった。
「マスター。いまお会計、どれくらいになってます?」
マスターが伝票を見ながら、電卓で計算してくれる。遠くでシェイカーが何かのSpumoniを作っていた。
「7,000円いかないくらいですかね?」
「すんません、ありがとうございます。おあいそお願い出来ます?」
Aが我に返って急にこう言う。
「健也くん、いいのよ、私出すから。大丈夫だから」
私は正直、器が小さいのか胸くそ悪い気持ちになっていた。吸っていた煙草を灰皿に力を込めて潰す。
「わたし、お金はいっぱい持ってるの。夫は資産家だからね。でも・・・・・・」
急に現実的な話になったなと思いながら、さっきの太鼓に深い意味があったのかが、やはり気になる。帰ってWikipediaで調べなきゃ!と思っていた。
マスターがサービスで赤ワインを出してくれる。鈍い照明、透き通ったステンドグラス、そしてAの深刻な呟きとその面影。
手元のグラスが、カウンターに深紅のいやらしい色合いの影を落としていた。
「そろそろ、22時になりますから、お開きにしません?」
私はあえて、彼女との談話から切り上げようとしたが、勿論、明日は出勤日であるからに遅くまで居座る訳にもいかない。それに、Aには子供が居る。
「Aさん、お子さんたち大丈夫ですか?」
「えぇ、家政婦さん居るから、大丈夫よ」
えっ家政婦雇ってるの?スゴいなと思った。
「でも、お母さんに居てもらいたいのが、お子さんたちの気持ちじゃないですかね?」
店内の客もそろそろ入れ替わってきている様だった。彼女のまつ毛や目元が、0.1カラットのダイヤのようにふと濡れていることに気づく。
「健也くんには分からないのかしらね、私の気持ち」
いや、分かってるよ。お前みたいな母親だったら、そりゃ子供も、なぁ、ねぇと。しかし、私は再び煙草に火をつけてから、黙って彼女の話に耳を傾け続ける。
「夫が冷たくてね。子供からも好かれてないだろうし」
「・・・・・・、いや、んー」
「家庭内別居状態なの、わたし」
なるほどなと思いながら、目をステンドグラスの方へ向けて、ただ黙想するしかなかった。目の前には、飲み干された後の空のグラスが二つ、綺麗に並んで置いた状態だった。
「マスター。いまお会計、どれくらいになってます?」
マスターが伝票を見ながら、電卓で計算してくれる。遠くでシェイカーが何かのSpumoniを作っていた。
「7,000円いかないくらいですかね?」
「すんません、ありがとうございます。おあいそお願い出来ます?」
Aが我に返って急にこう言う。
「健也くん、いいのよ、私出すから。大丈夫だから」
私は正直、器が小さいのか胸くそ悪い気持ちになっていた。吸っていた煙草を灰皿に力を込めて潰す。

