この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
Short ★ Short
第1章 トレンチコートのおんな
 夜風にあたりながら、Aと店の外で談話を続ける。時々、路上を走る車の音が、まるで何かのレザーバッグを冷たい鉄球で引っかくように聞こえていた。

 「今夜は月が綺麗ね。織り姫と彦星がそろそろ出会う頃合いかしらね」
 「・・・・・・」
 「I Love Youって『月が綺麗ですね』って、夏目漱石は訳したのよね?」
 「まぁ、そうですね」

 数十秒の沈黙がここで流れる。明日のことなどすっかり忘れていた。

 「タクシーで今日は来られたんですかね?私、家近いですからぁ~!」

 だがしかし、Aが私に寄りかかって、寂しそうな顔をしながら路面のアスファルトを見つめる。

 「・・・・・・」

 それでも、それでも、やはりAのお子さんたちのことが頭に何度何度も過ぎってしまう。この馬鹿野郎とAと、そして私自身にも怒号をあげる気持ちで、ただただ店の外で二人突っ立っていた。

 「私、明日仕事なんですよ。だけども・・・・・・」

 明日のことを冷静に思い出したのはいいが、この目の前のAを大切に出来なければ、そちらの方が後悔になるのではないかとさえ、この瞬間にふと思う。でも、いやらしい女だなと思っている部分が一番大きい。

 「私は独身で彼女も居ない。私が昔から好きなのはガンダムの模型です。でもAさんには家族が居る、別居状態かもしれないけども」

 何が言いたいかくらいさすがに分かるはずだ。勿論、Aはそれくらい計算済みのつもりなのかも知れないけども。

 「健也くん、鈍感なのね。わたし、残念だわ」
 「・・・・・・Aさん、一言言っていいですか?」
 「何?」

 腹の底から沸き上がってきた想いが次のように口から出た。

 「おぃ、馬鹿野郎!ばかやろうがばかやろうしてんのか?そりゃばかやろうじゃねぇか」

 怪訝な顔をして、Aが私を見つめる。そして、次の瞬間彼女の手を握って、そのまま目の前にさっきから止まっていたタクシーに連れ込んだ。



 煌びやかな国道沿いの街灯がどんどん視界から遠ざかってゆく。街の外れ、海沿いを走らせて二人黙ったまま手を握っている。
 渚が月の光にキラメいて妖艶なうねりを帯びてゆく様は、その時のAに似つかわしく思えた。
 そして、二人たどり着いた場所は、綺麗な模型の城のような人工空間。もう戻れない、真夏の深夜のパラダイス。
/46ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ