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真愛~美女と野獣より・孤独な王子と黄色い薔薇の物語~
第1章 孤独な王子
トーマス自身が消し去りたいと思っている過去は、この痕跡がある限り無くならない。傷痕を見る度に、彼は自らが犯した愚かな過ちに向き合わなければならないからだ。
仮にも一国の皇太子がリストカットを図ろうとしたなどと、王室庁が認められるはずもない。
あのときは、本当にどうかしていたのだ。人は誰でも長い生涯には魔が差す瞬間があるというが、まさに、あの―夢中で自分の手首に小型ナイフを当てたときこそがトーマスにとっては、そうだったのだろう。
我が身をこの世から何の痕跡もなく消し去ってしまいたいと思うほどに、彼は追いつめられていた。
仮にも一国の皇太子がリストカットを図ろうとしたなどと、王室庁が認められるはずもない。
あのときは、本当にどうかしていたのだ。人は誰でも長い生涯には魔が差す瞬間があるというが、まさに、あの―夢中で自分の手首に小型ナイフを当てたときこそがトーマスにとっては、そうだったのだろう。
我が身をこの世から何の痕跡もなく消し去ってしまいたいと思うほどに、彼は追いつめられていた。