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快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体
第177章 イルボンのソンセン
「おい、オレは禁煙してんだから、あんまりこっちに煙を出すな。
勿論、オレたちは日本で生まれたが、周りは皆ハングルで話すから自然とハングルで話すようになる、そうだろ?でもソンセンはハングルも話せたし、オレたちが将来日本で生きていく為に困らないようにと、日本語も教えてくれた。当時ソンセンは50前後だったから生きてりゃ70過ぎてるんじゃないかな…」

当時を振り返り、ソンヒョクはリングを下りて、天井にぶら下がってる太いロープに手をかけた。

「ソンセンのトレーニングは一切器具を使わない、オレたちの自重を生かしたトレーニング方法を教えてくれた。例えばこのロープ、これを掴んで天井まで上がって、下りてまた上がる。
後は腕立て伏せや腹筋、スクワットに柔軟体操…ソンセンはいつもオレたちに言ってた
【お前たちに見せかけだけの筋肉など必要ない、重要なのはしなやかな筋肉とバネだ】と。
だからウエイトトレーニングなんかする必要もない、自分の身体だけを使ったトレーニングで鍛えられた」

「…てことはその日本人はテコンドーの経験者ってワケか?」

その日本人は今何をしているのだろうか、気になる。

「テコンドーというより、ソンセンは若い頃、空手と柔道をやっていたらしい。
それで自分の格闘技が世界で通用できるか、って事で色々な国に渡って他流試合をしてきたみたいだ。そのせいなのか、オレたちはテコンドーのみならず、寝技も教わった。だからソンセンから教わったのは、総合格闘術ってヤツだ」

「あのよぉ、ソンヒョク。オレイマイチピンとこないんだが、その日本人は何がしたくてここに来たんだ?その日本人の名前は?何て言うんだ?」

ソンヒョクはロープを掴み、腕力だけで天井まで上り、フワッと柔らかいジャンプで床に着地した。

「見たろ、今の?天井まで上り、そっから床に着地する。普通ならズドン!て音を立てるか、足を捻って捻挫しちまう。
だが、オレたちは猫のように着地する際も足音を出来るだけ立てずに上手く着地できる。
こういう事をソンセンに教わった」

この小屋の天井の高さは3メートルをゆうに越えている。
そこから飛び降りて足音を最小限に抑えて上手く着地するなんて並大抵の事じゃ出来ない。

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