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空、夕暮れ
第1章 声
「 明日は合同講義だよ。」
「 あっ、そうだ。合同講義…! 」
彼が口にした『 合同講義 』とは、授業後に学科関係なくある科目について講義してくれる場で、唯は筆記がとても苦手だった為毎回出席していた。そして彼も、毎回この講義には出席しているようでこの講義で見かけることが多かった。
「 そ。じゃ。また明日。カスミユイ。」
ニコリと彼が私に笑みを向ける。大きな瞳が柔らかくくしゃりと細くなる。その表情と不意に呼ばれた名前に私の心臓は再びドキリと跳ね上がった。
「 なっ、んで私の名前…っ 」
くるりと体を店の入り口に向けた彼が再び軽くこちらを振り向く。すると、キョトンとした顔で私と目を合わせると口端を緩く上げ目を細める。まるでもちろん知っていますとでもいうような顔で。
― カランカランッ ―
入口のドアに吊るされていた鐘が鳴る。彼の背中はドアの向こう側に行ってしまった。
「 何見とれてんの。香澄。」
彼の姿が見えなくなったと同時に声をかけてきたのは拓だった。拓は私のことを必ず苗字で呼んでくる。
「 見とれてなんかっ… 明日、合同講義だから時間… 」
「 いい。わかってる。勉強頑張って。」
合同講義の時は必ず遅い時間まで学校にいることになる為、まだ高校生の彼と無理に時間を作るようなことは到底できない。
「 ごめんね… 」
「 いい。大丈夫だから香澄は勉強頑張って。」
「 ありがとうね。」
拓が少しシュンと眉尻を落す。女の子のようなその表情に胸を締め付けられる。彼も受験生なので程々にわかってくれているのか、無理なことは言ってこない。そんな拓に何度か助けられていた。