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第10章 暗闇の底に
アイルは

息をしていないのではないか

と思う程の…酷い姿で見つかった






涙でグシャグシャに濡れた顔



手は手首から上の色が変わるほど
強く拘束されて

手首は擦り切れて
血が滲んでいる

拘束を解こうと試みるが取れない。





『くそっ…』



頬が赤く腫れ
ぐったりとして顔を歪め
苦しそうに息をしているアイル。



所々にある、無数の擦り傷…

噛まれたような痕…



…そして


下唇が


ザックリと切れて血が流れていた。





首の辺りまで血が流れ落ちている…







…なんだよこれ……切られたのか!?





それに…流れてる血以外にも

…なんか

ベットリと…

紅いものが唇全体についている。





・・・口紅?




アイルはこんな色…まず使わない。




可哀想とか
痛々しいなんて言葉では
済まされない姿に
目頭が熱くなる。







なんてことを…しやがる。





『…ぅ…』

わずかにアイルが…ピクっと動いた




『アイル・・・!!?』




『…テ……ハ…メテ……ウキ…スレ…ナ』





『ア…イル…』


何か声を発しているが聞き取れない


口元に耳を傾けた。









『キスだけは…やめて…

リョウキを・・・忘れたく…ない

リョウキ…忘…れたくない』








うわごとのように繰り返す…


かすかに放たれた言葉に
オレの目からは勝手に涙がおちた。





何を…何てこと言ってるんだよアイル。




こんなひどい目に遭わされて…

自分が今にも
身体を‥ヘタすれば命をも
奪われようとしているって時に…

なんで…
オレのことなんか…。







『っっ…アイルっ…』




オレはアイルをつよく抱きしめて
涙をふり切るように拭った。




アイルはオレだと気付いていない




寝言のような言葉だったみたいだ。







声をかけても、やはり反応しない


意識は・・・ないみたいだ。







オレは奥歯をギリっと噛んだ







守れなかった。






守ってやりたかった。





チクショウ…





守れなかった…。


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