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囚われの天使たち
第2章 支配

空気を切り裂くような高音だ。同時に、夏子が悲鳴をあげる。

「痛い!」

奈津子の顔が勢いよく横を向き、ショートヘアが舞った。男が、奈津子の頬を手の平で打ったのだ。

男はもう1度しゃがみこみ、今度は奈津子の髪の毛を鷲掴みにして、無理やり自分の方を向かせながら言った。

「言っただろう。言うことを聞いている限りは痛いことはしないって。つまりそれは、言うことを聞かなければ痛い目に合うということだ。分かったか」

奈津子は荒い息を吐きながら、小刻みに震えるばかりだ。そんな夏子に対して、男は怒鳴った。

「分かったか!」

怒鳴りながら、髪を掴んだ手を激しく揺さぶる。奈津子の頭も、それに合わせて激しく揺れる。

「は、はいいい、わかりましたあ!」

嗚咽混じりに、奈津子は叫んだ。鼻水が垂れ、下がり気味の目尻からは、涙があふれている。涙は、赤くなった頬を伝い、次々と顎の先から雫となって床に滴っていた。

「よし」

男は髪から手を離して、また立ち上がった。

「もう1度言うぞ。立て」

奈津子はしゃくりあげながら、おどおどとした動作で言われた通り立ちあがる。

「返事をしないか!」

男は怒鳴り声をあげ、ふたたび奈津子の頬を打った。

「きゃあ!」

短い叫びとともに、奈津子の頭は激しく横を向いた。

「返事は『はい』だ。早く言え」

「は、はい……」

鼻水を啜りながら、奈津子はようやくそう答えた。

「やれば出来るじゃないか」

男は一変して優しい声を出し、片手をあげて奈津子に近づけた。奈津子は横を向いて身を縮める。しかし、男の手は意外にも、奈津子の頭を優しくなでたのだった。

「それで良いんだよ。言うことを聞くというのはそういうことだ。命令されたら『はい』と返事をして、言うとおりに行動する。そうしていれば痛い目を見ずに済むのさ」

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