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銀木犀の香る寝屋であなたと
第6章 再生
 数年たち戦争は終結した。

 珠子とキヨと吉弘は戦火の中を、身体一つで何とか生き延びることが出来た。しかしもう米一粒も残っておらず、換えられる着物や宝石類はすべてなくなった。
山に入り山草を取り、川に入って蟹やら貝をとっても、育ち盛りの吉弘には焼け石に水だ。何とか植えた畑の作物が実るまでまだ三ヵ月もかかる。

 珠子は最後の一枚である、白いワンピースを着てキヨに切ってもらったボブの髪をとかし、出掛ける用意をした。

「珠子さん、どこへ?」
「少し町に行ってみるわ。なにか仕事があるかもしれない」

「すみません……。いつも珠子さんにばかり……」
「いいのよ、キヨさん」

 キヨは顔のやけどが治り切らず、外で仕事を探しても断られてしまう。珠子にはその顔のやけどが吉弘を守った勲章だと思っているが、世間では気味悪がられるばかりだ。

 がたっと引き戸が開き、元気よく「ただいまっ」と吉弘の声が聞こえた。

「あ、おかえり」

 擦り切れた着物の袖でキヨは目元を抑えながら答えた。

「あれ?たまこかあさまどこかにお出かけなさるの?」
「ん。少し町へ行ってみようかと」

「ええー。ダメだよ。お友達が言ってたよ。町はガイコクジンだらけで危ないって」
「ええ?ほんとうなの?吉弘?」

 キヨが眉をひそめ吉弘に向かう合う。

「うん。学校でみんな言ってる」
「珠子さん……」

「大丈夫よ。ちゃんとラジオ放送で言ってたらしいわ。外国の方たちは日本を侵略することはないって」
「そう……ですか……」

「吉弘さん、心配しなくても大丈夫よ。キヨ母さんとちょっと一緒に居てね」
「う、ん……」

「お返事は『はい』ですわよ」

 明るい笑顔を作って珠子はさっと出かけた。
背後に、キヨと吉弘の心配そうな雰囲気が感じ取れたが振り向かず歩き出した。
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