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銀木犀の香る寝屋であなたと
第6章 再生
 一時間ほど歩くと町中に出る。
吉弘の言う通り、外国人がジープに乗って狭い町を往来していた。

 砂埃が舞い、せき込みながら珠子は洋食屋『イタリヤ亭』のある繁華街へと向かう。この町は大きな被害は少ない様で戦前と同じ店構えが立ち並び、そろそろ再開の見通しを立てようとしているものも多くいそうだ。

 期待を込めてイタリア亭へ急ぐ。(店長いるかしら?)

「あっ」

 店構えはそのままだが看板が変わっていた。

「カフェー アメリカ……」

 ぼんやりと文字を読んでいると、隣に男が並んで声を掛けてきた。

「何か御用ですか?」
「え、あの、以前ここは洋食屋だったと思うのですが、失くなってしまったのでしょうか?」

「ああ。店長が戦争で亡くなってしまいましてね。今度は僕がここでカフェーを始めることにしたんです」
「えっ、あ、店長が……。そ、そうですか……」

 予想をしていたことではあるが実際に知ると胸が痛んだ。
愛してはいなかったが『一緒になりたかった』と言ってくれた言葉を思い出し、涙が溢れた。

「お知り合いでしたか」
「あ、ええ。少しだけ。ありがとうございました」

 頭を下げて立ち去ろうとすると男が「ああ、待って」と引き留めた。

「は、はい」
「あなたは仕事を探しているのではないですか?」

「え、ええ、まあ……」
「どうです?ここのカフェーで働くのは。なかなかいい女給がこなくてねえ」

「は、はあ……」

 まるで既視感の様な気がする。井川三郎にこの男は雰囲気も似ている。(仕事……しなくちゃ)
珠子は前と同じような感覚でここに勤めることに決めた。
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