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空蝉
第23章 羽化


あなたの目には わたくしは どんな女に みえますか

こころの内を 知りたくて からだを与え 受け止めて

恥辱にも似た 行為さえ 耐えて、あなたの 目に宿る

愛を探して おりました



愛を求めて 抱かれても 不義と呼ばれる 哀しさが

人妻ゆえの 定めなら

いっそ、あなたに 導かれ 恥辱の坂を どこまでも

転げて、堕ちて しまおうと 思い定めて おりました



「たとえ、あなたが 望むのが このからだでも いいのです

愛しい方が 望むなら どんな淫らな 女でも

生娘に似た 恥じらいも ぜんぶ、ほんとの わたしです

あなた次第の 女です



だから、遠慮は いりません

いっそ、主人の 目の前で どうぞ、わたしを 弄び

あなたのモノで あることを 教えてあげて ください」と

言ってはみても 苦しくて すがって、泣いて おりました



「あなたの愛は いりません あなたのモノで あることが

許されるなら ただ、それで わたしは、生きて まいります

あなたの前で 他の方に 抱かれて、泣いて いてさえも

不しあわせでは ありません」



ひとを裏切る 苦しさは 消せるわけでは ありません

けれど、わたしの言の葉は ぜんぶ、ほんとの 想いです

だから、あなたに 見守られ あの日、はじめて 逢う人に

肌を穢され 泣きました



罪を重ねて ゆくほどに

「不義」の意味さえ 軽くなり

木の葉のように 風に舞い 快楽の外に 消え失せて

わたしの纏う プライドも 水に溶けゆく 薄紙の

ように、詮なく なりました




だから、もうすぐ 鮮やかな 夜の光に 群がれる

欲にまみれた 殿方と 欲を求める 淑女らに

すべて、わたしを さらけ出し

あなたのモノと お披露目を させていただく つもりです



それが、あなたの 調教の 成果となれば なおさらに

どんな、ことでも 受け止めて

あなたの指が 紡ぎ出す 調べに、淫らな 舞をまい

あなたの欲を 満足に 変えてみようと 思います



ただ、ひとつだけ あなたにも 言えないことが あるのです

紳士、淑女の ただ中に なにも知らない あの人が

わたしをわたしと 知らぬまま 好奇の顔で 待ち受けて

いまも、座って いるのです




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