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遠い日の約束。
第5章 忘れていた過去
「彩ちゃんは…シンガポールで飲むんですか?」

「いや…あっちでは飲まないかな?ここだから気が許せて酔えるんだと思うよ」

お義兄さんの手が優しく彩ちゃんの髪に触れた。
触られた彩ちゃんは分かったのか密かに微笑んだ。
理想的な夫婦。
当たり前だけど、愛し愛され人に祝福される関係。

「華ちゃんは…幸せ?」

彩ちゃんに向ける優しい表情を私に向ける。
幸せかと言われれば幸せなんだと思う。
いつもそばには俊樹さんがいてくれて穏やかな時間を過ごせてる。
だけど今の関係が曖昧で素直に幸せだとは言えなかった。

「彩がね。いっつも華ちゃんの事気にしてるから…学生の頃色々あったことも聞いてるし…自分だけが幸せになっていいのかっていつも悩んでる…自分の幸せより華ちゃんの幸せを願ってるよ」

お義兄さんの言葉が心に刺さる。
いつまでたっても私の存在が彩ちゃんを苦しめ悩ませている。

「誤解しないでよ。華ちゃんが悪いと言ってるわけじゃないから…。彩が話すんだ。華ちゃんはどこか幸せになることを拒んでるって。その手を取れば幸せになれるのに、最後の最後にはその手を取ることはしないって…だから離れるのが辛いってシンガポールに行くときは泣いてたよ…。彩は華ちゃんの幸せを異常なほどに願ってるね…昔、自分の事で不幸にしてしまった借りを返すみたいに…」

お義兄さんの言葉はすごく納得できる。
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